中村晃が募らせる危機感 常勝時代を知るからこその課題「戦えるチームにならない」

ソフトバンク・中村晃【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・中村晃【写真:藤浦一都】

「諦めが見えたりすると、どんどん弱くなる」

 執念を感じさせる一打だった。7日にPayPayドームで行われたロッテ戦。2位を争う大事な3連戦勝ち越しを決定づけたのは、中村晃外野手のバットだった。前日は胃腸炎の影響で欠場したものの、わずか1日で戦列に復帰。その試合で価値ある適時三塁打を放ち「勝ってよかったです」と安堵の笑みを浮かべた。

 前日6日の試合前練習に中村晃の姿はなかった。その日の明け方、寒気と関節痛で目が覚めた。体調不良のために自宅で静養。NPBの「特例2023」の対象選手として出場選手登録を抹消された。「情けないですね。休んでしまったことが情けない。体調管理ができなかったということなんで」。大事な終盤戦。1試合とはいえ、欠場してしまった自分を悔いた。

 幸いにも体調は1日で回復した。「動いてどうかな、という感じだったので、動いて大丈夫そうだったのでそのまま行かせてもらった」。まだ体の重さは残っており、決して万全とはいえなかったものの、戦列復帰となった。3打席続けて凡退したが、2点リードの7回2死一、二塁で中堅の頭上を破る2点適時三塁打を放った。

 2位のロッテ、4位の楽天との6連戦。「ずっと試合に出させてもらっていたので、情けなさと申し訳なさがあった」。打球がフェンスに達するのを見ると、必死に三塁まで走った。「軽すぎて逆にふわふわする感じでした。(三塁コーチの)村松さんに『やっぱり休んだらダメですね』って言いました」。自分のコンディションを気にしつつ、貴重な追加点が嬉しかった。

 チームは首位のオリックスに大きく水を開けられ、3年ぶりのリーグ優勝は厳しい状況だ。2位でのクライマックスシリーズ進出が現実的に目指すところになりつつある。厳しい現状にあるが、中村晃は「難しい状況ですけど、1試合1試合勝つしかないのかなと思います。若い選手はチャンスだと思いますし、それに負けないように僕らは結果を出し続ける。それが結果的にチームの勝ちに繋がるのかな、と。1人1人やることは変わらない」と足元を見つめる。

 今宮健太内野手は先日、「全力疾走とか、そういう姿ができなくなると、チームとしてOKになると、もっともっとダメなチームになる」と危機感を募らせていた。中村晃も思いは同じ。「諦めるってことはない。常に今日の試合を勝つためにやるっていうのは変わらない。試合の終盤とかで点差が離れたりした時に、そういうの(諦めるような空気)が見えたりすると、どんどん弱くなる。そういうことを(今宮は)言っているんだと思います」と説いた。

 なかなかチームの歯車が噛み合わず、2か月以上、3連勝がない。オリックスの背中は遠のき、4位の楽天が迫っている。そんな状況でも、選手がやるべきことは変わらないと中村晃は言う。「ベンチの雰囲気だったり、しっかりそういう姿勢とかが自然にできないと強くはならない。強いとは、思っていない。また強くなるためには、そういうところが大事だし、それが当たり前じゃないと戦えるチームにはならない」。かつて“常勝”だったフィロソフィーは今、失われつつある、という。チームを背負う中心選手が抱く危機感の表れだ。

 だからこそ、チームの先頭に立って戦う姿勢を示す。それは、かつてチームを背負っていた松田宣浩内野手(現巨人)ら先輩を見てきたから。「元々は出さない方だったんですけど、松田さんとか先輩方がやっているのを見ていたので。今は見せていかないとダメなのかなと思っていますけど……。体調崩して休んでいるようじゃダメなんですけどね」。チームが逆境に立たされている今だからこそ、中村晃のような存在が頼もしく映る。

(鷹フル編集部)