内野フライでも「勝負できる」 野村勇がセーフを“確信”した瞬間…取り戻しつつある足への自信

ソフトバンク・野村勇【写真:竹村岳】
ソフトバンク・野村勇【写真:竹村岳】

初回1死満塁、三塁から二飛で生還…首脳陣が絶賛した技術的ポイントとは

 決死のダイブだった。ソフトバンクは、29日のオリックス戦(長崎)に7-0で勝利した。貴重な先制点を奪ったのは、野村勇の足。初回1死満塁で、中村晃外野手が二飛。相手の捕球を確認すると、三走の野村勇は一気にホームに突っ込んだ。野球人生でも「初めて」という内野フライでの“タッチアップ”。瞬時の判断や、ファームにいた時の心境など、大粒の汗を拭いながら試合後に語った。

 チームは4連敗中。25日からの楽天3連戦(楽天モバイル)では3連敗を喫し、藤本政権では初の借金生活に突入した。4位の楽天とは2ゲーム差となり、ジリジリとBクラスが近づいてきていた。28日に長崎まで移動し、迎えたこの日に野村勇は生海外野手らとともに1軍昇格。早速「2番・三塁」でスタメンを託された。

 初回1死、ワゲスパックの140キロに詰まりながらも中前に落として出塁する。柳田悠岐外野手の右前打、近藤健介外野手の中前打で満塁として中村晃だ。詰まらされた打球は、ふらふらと二塁後方へ。二塁手の宜保が捕球すると、野村勇がスタート。1度はアウトの判定も、すかさずホークスベンチがリクエスト。判定は覆り、貴重な先制点をもぎ取った。

「僕の判断で、セカンドの体勢も悪かったので。僕もセカンドだったら難しい(プレー)ですし、ピンポイントで投げないとアウトにならない。勝負できるかなと思った」と振り返る。その後に牧原大成内野手の2点適時打、今宮健太内野手の適時打にもつながっただけに、試合を動かした好走塁だった。三塁コーチャーを務める村松有人外野守備走塁コーチも「勇が思い切りいってくれた」と絶賛する。1軍で試合ができる喜びが、自分を突き動かしてくれた。

 アウトとなればチェンジとなってしまう場面。ためらうことなくスタートを切ったことにも「思い切って。けっこう行ける確率の方が高いと思っていたので。(判定は)『セーフや!』って思ったんですけどアウトと言われて。セーフっていう自信はありました」という。際どいプレーの中でも、自分の中で“勇気と確信”があったから、切れたスタートだった。

 野村勇は今季28試合に出場して打率.179、2本塁打、5打点。出場機会になかなか恵まれず14日に登録抹消されると、ファームにいた期間では「あのまま1軍にいても無理やなと思った。モチベーション、保てなかったです。ベンチばっかりやったんで」と本音を漏らしていた。栗原陵矢外野手の右手首骨折など、チーム状況も大きく動いて、再登録された。どんな思いでこの日、グラウンドに立っていたのか。

「(ファームにいた時は)やっぱり悔しい気持ちと、1日も早く1軍に戻れるようにアピールするだけだったので。悔しい気持ちを練習だったり、糧に変えて頑張りました。1軍で活躍してナンボだと思うので、よかったです」

 ルーキーイヤーの昨季、10本塁打10盗塁を記録するなど高い身体能力が持ち味。出場数が限られている影響もあっただろうが、今季は意外にもいまだに0盗塁だった。2月には腰の手術を受けたこともあり「腰を痛めたので、そんなにすぐは戻らないというか。戻るかもわからない。今は100%に近い」と状態を分析する。この日のプレーこそ、野村勇らしいスピードとパワーが、少しずつ戻ってきている証だ。

 8回にも二塁打を放ちマルチ安打を記録。頼もしすぎるほどの活躍で、連敗をストップさせた。「これからも走っていきたいと思います」と、また前だけを向く。出場機会に飢え続けていた野村勇の勢いが、ラストスパートの中心となる。

(竹村岳 / Gaku Takemura)