「常に良くないと、生き残れない」 偉業達成も…“実直な男”石川柊太が忘れぬ向上心

ソフトバンク・石川柊太【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・石川柊太【写真:荒川祐史】

5月19日の西武戦以来の4勝目、白星がつかなかった3か月間の心境とは

 いつも実直な男らしい言葉だった。ソフトバンクの石川柊太投手が18日、本拠地での西武戦に先発登板して、史上88人目のノーヒットノーランを達成した。9回127球、4四死球を与えるも無安打で獅子打線を抑えた。チームでは昨季5月に達成した東浜巨投手以来の偉業。自身の白星自体が3か月ぶりだったが、その期間についても「特につらいことはなかったです」と言う。その真意に迫った。

 初回2死からペイトンに四球を与えるも、続く中村を空振り三振に仕留め、立ち上がりをしのいだ。4回1死には、中村が放った一二塁間への打球を一塁の中村晃外野手が横っ飛びで好捕。バックにも助けられながら、終盤にたどり着いた。8回からは、明らかに期待が込められた拍手がスタンドから起こる。「それはひしひしと感じていましたし、力になりました」と石川自身にも届いていた。

 迎えた9回2死二塁、中村を一ゴロに斬って快挙を成し遂げた。「ビックリと嬉しさと両方です」と率直な思いを語る。通算465発のスラッガーを打席に迎え「素晴らしい打者という中で、そこと対峙するという意味でも気持ちが入った。やっぱり相手があっての自分。対戦相手がいるから、思っている以上の力を出させてもらえる」と相手へのリスペクトを忘れないのも、謙虚な石川らしい。

 石川にとっては5月19日の西武戦(PayPayドーム)以来の4勝目。3か月、白星から遠ざかった。それでも首脳陣から託された先発のマウンドに立ち続けた。ファンからの厳しい声も届いていたはず。それでも、石川は「つらいことはなかった」と笑顔で言い切る。突き動かしてくれる思いは、向上心だけだ。

「勝てなくてつらいって言うのはないですね。勝てないことというよりは、純粋に自分が投手として上手くなりたいというのにシフトできていたので。どうやったらいい球が投げられるんだろうということだけに集中して、突き詰めてやれていた。自分の中で勝てないというのは“邪念”だと思っている。それで一喜一憂する必要はない。トーナメントじゃないので、リーグ戦ですから」

 他の誰よりも自信の結果に納得していないのはもちろんだが、白星は自分の力だけで左右できない要素でもある。そこにとらわれてしまうことを、石川は「邪念」と表現した。「シーズン途中でも(フォームを)変えられるように、普段からいろんなことを試しているから変えられた。それがいい方向に行っている」と、暗いトンネルからの出口を探し続けた結果が、この“ノーノー”だった。

「カットボールも振ってくれるようになっているので、バッター側からすると嫌なのかなって。数値的には(直球の)ホップ成分が上がっていたりとか、カットボールも曲がっていたりとか。カーブも縦の要素が増えてきていて。前まではサイドスロー気味に投げていたのを、今は立てられているから、バッターは嫌なのかなと。球速ももっと出れば球数も減らせると思いますね」

 シーズン途中に栗原陵矢外野手からは、「背負いすぎてやばいぞ」と声もかけられた。“責任”と向き合い続けたからこそ、報われたことが嬉しかった。栗原本人も「めっちゃ緊張しました。『飛んでくるな』とか思いながら」と笑うが「石川さん頑張っていたので、なんとかできることはやりたいと思った」と達成を喜んだ。石川にとっても、偉業達成はもちろん、周囲の人を笑顔にできたことが嬉しかった。

 今年の1月には、結婚も発表した。支えてくれる愛妻の存在も「どんな時も味方でいてくれる。それはすごく大きいですね。家で野球の話をしないので、自分は。家に帰ったら励ましてくれます」と表現する。いつもかけてくれる言葉は「怪我しないで」だといい、「それが一番(妻は)気にしているので。すごくありがたいですね」と家族の存在も突き動かしてくれる思いの1つだ。

 責任感が強く、実直で謙虚。周囲の人たちをリスペクトする姿勢など、石川らしさがたくさん詰まったノーヒットノーランだった。「本当に次が大事。もうそれだけしか考えていない。常に良くないと、この世界では生き残れない」。チームはまだまだ上位進出を目指す途中。すぐさま次戦に目を向けて、充実の一夜を締めくくっていた。

(竹村岳 / Gaku Takemura)