上林誠知が迷い込んだ“闇”「自分は必要じゃないのかな…」 雨中の激戦で示した存在価値

6回に適時打を放ったソフトバンク・上林誠知【写真:矢口亨】
6回に適時打を放ったソフトバンク・上林誠知【写真:矢口亨】

4月24日に出場選手登録を抹消され「1か月間くらい病んでいたんで…」

■ソフトバンク 9ー7 ヤクルト(15日・神宮)

 4時間47分に及ぶ激闘を制した。ソフトバンクは15日、敵地・神宮球場でヤクルトと戦い、延長戦の末に9-7で勝利を掴んだ。延長10回に今宮健太内野手が勝ち越しの適時二塁打を放ち、これが決勝打に。開幕カード以来の同一カード3連勝とした。

 試合を決めたのは今宮だったが、忘れてはいけない立役者がいる。この日「7番・中堅」で出場した上林誠知外野手だ。1軍再昇格後、初のスタメン起用で5打数3安打3得点1打点。勝負が決した延長10回にもチャンスを作り、決勝点のホームを踏んだ。

 まず魅せたのは2点を追う5回だった。シトシトと雨が降り続く中での中盤。回の先頭で打席に立つと、冷静に相手の守備隊形を見つめた。「雨ですし、相手は外国人投手というのでやろうかな、と。守備もそんなに前でもなかったですし、とりあえず雨というのが1番頭にありました」。三塁前に絶妙なセーフティバントを決め、その後の逆転の口火を切った。

 再逆転を許した6回には無死一、三塁で打席に立って中前適時打。牧原大成内野手の押し出し死球で再々逆転のホームを踏んだ。7回のチャンスでは二ゴロ併殺打に倒れたものの、先頭で迎えた10回の打席ではこの日3安打目となる右前安打。その後、今宮の適時二塁打で勝ち越しの生還。3得点全てがゲームを動かすものになった。

 13日の同戦から1軍に昇格し、1戦目、2戦目はベンチスタートだった。15日の試合で近藤健介外野手が腰の違和感を訴えて、この日は今季58試合目で初めてスタメンから外れた。代わって起用されたのが上林。昇格後初スタメンに「やっぱりスタメンの方が流れを掴みやすいですし、打席ごとに修正ができるんで、本当はそっちの方が向いているんですよね」と振り返った。

 今季は開幕1軍入りを果たしたものの、スタメンとベンチスタートが半々で「ちょっと難しかったです」。なかなかリズムを掴めず、打撃は低迷。打率1割台に沈み、4月23日のロッテ戦(ZOZOマリン)で2軍降格を言い渡された。4月24日に出場選手登録を抹消されると、そこから暗いトンネルに迷い込んだ。

「(2軍に)落ちてから1か月間ぐらいはめちゃくちゃ病んでいたんで……。10年もやっていれば、チームの内情も分かってくるし、そういう中で自分は必要じゃないのかな、っていう考えなくてもいいようなことを考えてしまって、自分を追い込んでいました」

 陰鬱とした気持ちを晴らしてくれたのは“時間”だった。「時間が経つにつれて徐々に回復してきて、そのタイミングでちょっとこれかな、っていうのも掴んだんで、タイミングが良かったですね」。5月下旬から徐々に復調。2軍で2試合連続で本塁打を放つなど、上向く打撃の状態とともに、メンタル面も晴れていった。

「今の状態だったら大崩れすることはないと思う。今日も想定内という感じだったんで、もっと良くなると思うんで、そこは微調整しながらですね。出たら出たで、こうやって結果を残す自信はあるんで。まだ前半戦も終わってないんで、後半戦はチームの軸となれるようにこれからやっていきたいです」

 こう語る表情はスッキリしていた。約1か月、ファームで“地獄”を見た先に、見えてきた光。ファンも大きな期待を寄せる上林誠知が戻ってきた。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)