ベンチでかけられた斉藤和巳コーチからの言葉…武田翔太がリリーフから積み上げる信頼

巨人戦に登板したソフトバンク・武田翔太【写真:荒川祐史】
巨人戦に登板したソフトバンク・武田翔太【写真:荒川祐史】

5月3日のオリックス戦後に斉藤和コーチから「だからこの数年こんな感じ」

 もう絶対に期待は裏切らない。与えられた役割から信頼を積み重ねていくことしか頭にない。2-4で敗れた11日の巨人戦(PayPayドーム)。ソフトバンクの4番手で登板した武田翔太投手は1回2/3を投げて無失点でバトンを繋いだ。斉藤和巳投手コーチから苦言を呈されてから、1か月以上が過ぎた。この日、降板後にかけられた言葉とは――。

 先発の藤井皓哉投手が左の脇腹を痛めて3回で緊急降板した。4回から尾形崇斗投手が登板。5回1死一、二塁となり、田浦文丸投手を投入するも、左腕が連打を浴びて同点とされた。なおも1死満塁で武田がマウンドに上がった。「もう向かっていくしかない。抑えることだけを考えて、コントロールも何も考えずにいきました」。岡本和の中犠飛で勝ち越し点を献上したが、大城卓は空振り三振に斬って最少失点でしのいだ。

 1死満塁からの登板で果たした仕事。それでも武田は、ベンチに戻ってくる際には悔しそうな表情を隠さなかった。6回も続投し、2死二塁で重信を迎えた。138キロのスライダーで左飛に抑え、グラブを大きく叩いてガッツポーズを見せた。先発と中継ぎの心境を比較しても「全然違うし、スッキリしています。迷いもない」と真っ直ぐに話す。そう捉えているのは、今の役割から再出発を誓っているからだ。

 武田は4月22日のロッテ戦(ZOZOマリン)、5月3日のオリックス戦(PayPayドーム)で2度、先発のチャンスをもらったが、ともに5回持たずに降板。オリックス戦の後には斉藤和巳投手コーチから、マウンド上での姿を指摘され「だからこの数年こんな感じなんやろ」とまで言わせてしまった。

 この日は厳しい場面でのリリーフだったが「もう気迫で。気持ちで勝てたらどうにかなる」と、とにかく打者に対して強い気持ちで向かっていった。「前回の先発で、和巳さんにああいう感じのことを言わせてしまった。自分の反省もありますし、覇気を出していきながら。マウンドの立ち姿も気にしながらいきました」と苦言すらも頭にも入れていたマウンドだった。

 そして、降板後には斉藤和コーチから、こう声をかけられたという。

「お前はやればできるんやから。これからも全力で頑張ってくれ」

 5月3日のオリックス戦の降板後と、翌日の4日の練習中に、武田は斉藤和コーチと言葉を交わした。会話の内容に「“もういいわ”っていう感じは本当に一切なかったです。『頑張れ』っていうのは、ものすごく伝わってきました」と振り返る。苦言は期待の表れだったと、しっかりと受け取っていた。「やればできる」という言葉にも、改めて武田への期待がわかる。結果と、何より姿勢で応えようとした。

 今季で12年目を迎えた。自分のためを思い、斉藤和コーチがハッキリと言葉にしてくれたことも「そういう行動をしてくれたことをしっかりと感じて、受け止めないといけない」と話していた。「現実主義者」を自称するように、メンタル面とともに技術面のアプローチも重ねてきた1か月。今はもう、与えられた役割から信頼を積み重ねていくことしか考えていない。毎試合、1球1球が勝負だ。

「出るからには、自分の責任なので。もう抑えにかかるしかないし、それだけです。気持ちで勝負していかないと。やるべきことをやっていくだけです」

 9日には国内FA権の取得条件を満たした。4年契約の2年目のシーズンを過ごしており「コーチの方々や、携わった選手や、そういう人々の支えがあって取れた。取ったからといって何をしようとかもないですし、感謝の気持ちを忘れずにやっていきたい」と前だけを向く。再出発を切った表情に、迷いは一切ない。

(竹村岳 / Gaku Takemura)