打率.306を支える打席での“嗅覚”…長谷川勇也コーチが絶賛した牧原大成の変化

ソフトバンク・牧原大成【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・牧原大成【写真:藤浦一都】

凡打から学んだ積極性の使い分け…「なんでも(打ちに)いったらダメ」

 積極性と淡白さは紙一重だ。見ている側にとっては結果論で評価することしかできないが、その“中身”は確実に進化を遂げている。ソフトバンクの牧原大成内野手はここまで27試合に出場して打率.306をマーク。打率に対して出塁率.330と積極性を発揮しながら安定した打撃でチームを救っている。昨季は打率.301と活躍したが、シーズンをまたぎ、その打棒には磨きがかかっている。

 牧原大の持ち味の1つが積極性だ。一般論で言えば、どんな打者でも追い込まれれば打率は落ちる。早いカウントから打つことで安打は期待できるが、凡退してしまった時は相手投手を助けてしまう。牧原大は“早打ち”の印象が強く、本人も「なんでも(打ちに)いったらダメだった」と積極性は“諸刃の剣”であることを認める。今季13年目を迎え、打撃面において成長しているのはどんな部分なのか。

 長谷川勇也打撃コーチは「“嗅覚”ですね」と切り出す。「ここはアグレッシブにいっていいところなのか、ケアをしていった方がいいのか、それは嗅覚です」と状況に応じて、積極性を使い分けることができるようになってきたと強調した。特に成長を感じたのは2022年だといい「3割も打って。そこは去年の経験が大きいと思います」。規定打席には2打席足りなかったが、昨季が成功体験になっていることは間違いない。

 長谷川コーチは現役時代、通算1108安打を放った。積極的にスイングを仕掛ける必要がない場面については「ここは向こうが逃げてくるだろうな、逃げの配球してくるだろうなっていう時です。相手バッテリーが逃げてくるのか、攻めてくるのか」とした。一塁が空いている時など、リスクを背負ってまでその打者と対戦する必要がない状況が、試合の中にはある。打者はそれを把握して打席に立つことが必要で、牧原大は少しずつその“嗅覚”を使い分けられるようになってきたというのだ。

 この領域に至った過程について、長谷川コーチは「失敗もしてきているから」と代弁する。積極的にアプローチして放った安打よりも、凡退した経験の方が圧倒的に多い。「彼なりに考えて、ケアの仕方を覚えていったんだと思います。失敗したことに対して、どれが正しかったのか。自分で答えを出してつなげている」と凡打を生かそうとする姿勢を評価した。牧原大も「自分で考えていくようになった」と自身の変化を実感している。

 積極性が持ち味である一方で、初球からボールになる変化球を投げられるなど、相手バッテリーからは積極性を“利用”するような配球をされてきた。長谷川コーチが進化の要因と語る“嗅覚”に、本人も「相手があってのことなので。素直に(勝負に)来る投手もいれば、来ない投手もいる。そこは状況に応じてやっていかないといけない」とうなずく。相手の意図を理解して打席に立つことが、結果にもつながっている。

 長谷川コーチは打撃の基本を「ホームラン競争」と表現する。スタンドにまで運べるほど力強いスイングができるコース、すなわち自分だけの“ツボ”を把握する。そして再現性を極限まで高めることが、まずは打撃の基本だ。牧原大も「基本的なスイングができているから」こその“嗅覚”だという。打撃において応用の領域で勝負ができているから、表現していける高等な技術だ。

「練習ではボコボコ、ホームラン打つでしょう。あれができるから、そういうケアもできる。それができないのにケアをすると、手打ちになってしまう。しっかりと振り切れるバッティングがあるから“嗅覚”を使うこともできる。応用ができるようになってきましたね。基本がないと応用はできないですから」

 育成での入団から13年目でこの領域までたどり着いた。全てをグラウンドに費やしてきたから、今の牧原大成がある。

(竹村岳 / Gaku Takemura)