なぜ7回1死満塁で田浦文丸だった? 斉藤和巳コーチが訴える“最善の選択”とベンチの思惑

ソフトバンク・田浦文丸【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・田浦文丸【写真:荒川祐史】

東浜巨が7回途中で降板「文丸(田浦)には悪いことをしてしまった」

 ホークスベンチは自信を持って送り出した。1-7で敗れた5月31日の中日戦(PayPayドーム)。6回まで1失点だった先発の東浜巨投手は同点で迎えた7回に1点を失い、なお1死満塁の場面でベンチは田浦文丸投手を送った。左腕は結果的に流れを止めることはできず、この回一挙5失点。敗戦後、藤本博史監督は「ここまでよく頑張ってくれている。自分が投げる全試合、完璧に抑えることなんて、人間できない」と田浦をかばった。

 東浜は7回1死一、三塁から村松に右前適時打を許し、勝ち越された。続く福永にも中前打を浴びて満塁となったところで、火消し役を託されたのは、今季ここまで1点も失っていなかった田浦だった。岡林を空振り三振に切り、2死。続くブライトも2ボール2ストライクと追い込んだが、最後は外角の145キロを右翼フェンスにまで弾き返された。これが走者一掃の適時三塁打となり主導権を中日に奪われた。

「ピンチを作って降板してしまい、厳しい場面で登板させてしまった文丸(田浦)には悪いことをしてしまった」と頭を下げた東浜。この日はロベルト・オスナ投手が体調不良により「特例2023」で登録抹消。守護神を欠き、継投にも影響がある中、ホークスベンチはなぜ田浦を送ったのだろうか?

 試合後、斉藤和巳投手コーチはキッパリと言った。

「それ(信頼)以外に何もない。じゃないと、あんな場面で投げさせない」

 試合前の時点で田浦は15試合に登板。14回1/3を投げて防御率0.00だった。打者の左右別の被打率を見ると、対左.167、対右.105と、左右問わず好成績を残していた。岡林は対右打率.292に対して対左打率.250。ブライトは右投手に8打数3安打、左投手に8打数1安打と、2人とも左の方が苦手というデータも出ていた。

 継投について問われた斉藤和コーチは「相手ばかりを見ても、ね。自分の投手の数字も見てやらないと。相手のバッターが『左を打っているから左は無理』とかっていうのは、信用していない証拠」と語り、田浦の状態の良さが一番の理由だったという。右のブライトまで続投させたことにも「昨日はゼキ(大関)から打ったけど、元々左は打っていなかった」。数字も信頼も踏まえ、あの場面での最善の選択が「田浦」だった。

 6年目の左腕は「もちろんゼロで抑えたいという気持ちでマウンドに上がりました」と振り返る。ベンチからの信頼についても「少しずつ信頼してもらえている中で、今日だったので。すごく悔しい気持ちではいます」。積み重ねているものがあったからこそ、なおさらここで結果を残すことで応えたかった。

 田浦は首脳陣から「『今まで抑えてきてくれたから。明日からまた切り替えて』っていうふうに言われました」と明かす。斉藤和コーチは「少しずつどころじゃないよ。信頼しているから」と力強く訴えた。この日はゼロを並べることはできなかったが、田浦が積み上げている信頼は、目に見えるほど輪郭づいてきている。

(竹村岳 / Gaku Takemura)