データの“深さ”を学んだサファテの一言 “負”の情報も大事…スコアラーに必要な信頼

ソフトバンク・吾郷伸之チーフアナリスト【写真:竹村岳】
ソフトバンク・吾郷伸之チーフアナリスト【写真:竹村岳】

吾郷チーフアナリストの裏方の美学「信頼を得るための努力を怠らない」

 今や「スコアラー」と言う仕事はプロ野球球団にとって欠かせない仕事になっている。「僕らは(数字、データとの)“通訳”だと思っている」と表現するのが、ソフトバンクの吾郷伸之チーフアナリストだ。相手チームの分析の末に結果的にチームが敗れれば、選手の生活をも左右してしまう。選手のデータに対する価値観を把握するのも仕事の1つ。「信頼、信用」で成り立つというスコアラーは、どんなコミュニケーションを取っているのか。

 吾郷チーフアナリストは「“無”の状態でいかせない努力をどれだけするか」と、大切な意識を強調する。相手選手の得意、不得意を把握した上で対戦するのか、全く知識のない状態で対戦するのかは全くもって違う。「選手が(自分たちの情報を)信じてやってくれて、違ったら責任は感じますけど、それは常に僕らが続けていかないといけない」。伝える側のスコアラーが曖昧では、選手からの信頼は得られない。

 分析した結果が合っているか間違っているかは、試合の結果でしか確認できない。結果論でしか評価できないだけに、スコアラーの貢献度は曖昧でもある。だからこそ「『どう攻めればいいですか?』っていうのに対して、『いや……』って言ったら、もう聞かれなくなるじゃないですか。はっきりと答えて、間違っていてもいいからちゃんと伝えてあげること」と選手の迷いを消す努力をすることが重要だ。

 吾郷チーフアナリストは、人の表情や声色を敏感に感じ取る。「会話をしていて、だいたい興味がないと、人って『へー』で終わる。でも、興味があったら『そうなんですよ』って(声のトーンが)上がるじゃないですか。そうなったら『よしよし、こういうのが興味あるんだな』って」。データに対する価値観は人それぞれだから、選手の興味も関心も把握しておかないといけない。普段の何気ない会話からコミュニケーションを図り、信頼を積み重ねるからできることだ。

「面白い話があったんです」と、自ら切り出したのが「キング・オブ・クローザー」と呼ばれたデニス・サファテの名前だった。チームが日本一に輝いた2017年、オリックスの西野はシーズンで2本の本塁打を放っていた。8月のソフトバンク戦で放った2本で、リック・バンデンハーク投手と石川柊太投手が直球系の球を被弾した。前年にはサファテも鋭い右飛を浴びていただけに、見逃せない対戦データとなっていた。

「大きいライトフライを打ったのかな」と回想する。サファテの担当だった山田雄大通訳も「確か西野がホームランを打っているのを見て『こんなの打てるみたいだよ』ってサファテに伝えた気がします」と代弁する。球界屈指のクローザーだったサファテだが、身長167センチの西野が直球をしっかりと弾き返す姿が驚きだったようだ。吾郷チーフアナリストは、反省もしながら当時の取り組みを明かす。

「当時って抑えた映像しか見せていなかったんですよ。でも、西野がそんな速い球を打てるってイメージがなかったので、サファテが『しっかりと打っている映像を見せてくれ』って。ネガティブ(打たれている)な情報ばかりを与えるとよくないと思っていて、ポジティブ(抑えている)な情報しか与えていなかったんです。こうやったら抑えられるっていう。それでミーティングでも(ネガティブな情報も)見せるようになりました」

「ポジティブ(抑えている)からネガティブ(打たれている)にいったら、そっち(打たれているイメージ)が残るかもしれないですけど、最初に打たれたものを見せた方がいいんじゃない? って言われて、ああそうかって。それでもいいんだって思って」

 自分なりに気を遣っていたつもりが、サファテは“できる準備は全てしたい”と訴えてきた。まさに予備知識を重要視するケースの一例であり「長打がある、真っ直ぐを打てるかもしれないっていうのを伝えきれていなかった。でもそれが“打てるかもしれない”って情報を与えるだけに気を付けるじゃないですか」と、今でも忘れない教訓となっている。スコアラーへの信頼があったからサファテの方からも踏み込んで意見を伝えてきてくれた。

「結局僕らは使われないといけない人間。数字とか、全てにおいて使ってもらわないといけない。そのために信頼されないといけないので。まずは、僕は腹の底から話せるというか。信用、信頼が一番大事だと思います。自分が褒められたいからやるとかじゃなくて、結果的にそれが勝利のワンピースになればいいと思っている。そのワンピースになるための信頼を得るために、努力を怠らないことを一番大事にしているかもしれないです」

 信頼という目には見えない言葉の中に、こんなにも深みがある。次回はデータの真髄、野球において「10割」を実現することはできるのかに迫っていく。

(竹村岳 / Gaku Takemura)