「今日を機に検診に」中村晃が届けたかった願い 明かした“便利屋”としての矜持

ソフトバンク・中村晃【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・中村晃【写真:藤浦一都】

「毎日試合に出させてもらっていますし、何も言うことはないです」

 ピンクに染まったスタンドを見渡しながら、中村晃外野手は声を張り上げた。「乳がんで苦しむ人、亡くなる人が1人でも少なくなってほしいと思い、早期発見の活動をしていますので、まだ検診に行っていない人は今日を機に検診に行ってください。よろしくお願いします」。お立ち台から、全ての女性に届いて欲しい願いを口にした。

 20、21日の西武戦は「ピンクフルデー」として開催された。昨季までは「タカガール・デー」として催され、今季から名称変更となったイベントだ。このイベントの大きな意義の1つが乳がんの早期発見、治療を目指す「ピンクリボン運動」。かつてホークスで2軍監督やコーチを務めた鳥越裕介氏が、妻を乳がんで亡くしたことから始まった活動で、鳥越氏の退団後、中村晃に活動が引き継がれている。

 この日、中村晃は初回に左前安打で出塁すると、2回の第2打席では二塁への内野安打でマルチ安打を記録した。4回1死二、三塁の第3打席はボテボテの遊ゴロに倒れたものの、打球の弱さが功を奏して三塁走者の柳町達外野手が生還。勝ち越し点を生み出すと、8回にも中前安打を放ち、5打数3安打1打点。「検診を呼び掛けるために上げてもらったかな」。お立ち台で乳がん予防の検診を呼び掛けることができた。

 2008年に鳥越氏は乳がんで妻を亡くし、同じ苦しみ、悲しみを味わってほしくない、とピンクリボン運動に賛同した。球団に掛け合い、2009年から「タカガール・デー」の中で運動が行われてきた。中村晃は鳥越氏から活動を託された時のことを「覚えていますし、それよりも鳥越さんの奥さんが亡くなられた時のことって、僕ら選手もやっぱりショックでした。それを機に鳥越さんは活動されているんで、思いは相当なものだと思うので、やっぱりそれをしっかり繋いでいきたい」と思いを新たにした。

 今季も攻守で“便利屋”としての働きが際立つ。ここまで全38試合にスタメン出場して打率.287、2本塁打12打点。最近は1番での起用が多いが、ここまで2番、5番、6番、7番と様々な打順を任されてきた。守備でも一塁が中心ながら、左翼、右翼でも出場。首脳陣の選手起用の選択肢を増やす存在としても重宝されている。

 選手としては打順やポジションを固定されたほうがプレーしやすいはず。ただ、中村晃はこうした起用を「ありがたいですね。なんだよっていう感じじゃないですし、固定してとも全然思わないです」と歓迎する。自身の中にも「それだけ便利な選手なんだな、と。自分でもそう思っていますし、それが持ち味でずっとやってきましたし。毎日試合に出させてもらっていますし、何も言うことはないです」という思いがある。

 この日は指名打者での出場だった。コンディション面を配慮されての起用法で、中村晃も「日曜日のこのDHはちょっとありがたかったです。体力的に2日間、しっかり(回復に)使えるんで。月曜日も使えますし、ちょっとありがたかったですね」と喜んだ。オフを1日挟み、23日の日本ハム戦(エスコン)からまたフレッシュな状態で戦える。

 19日の試合では9回に頭上を越えようかという小フライをミットの先で必死に掴み取った。打席でも、そしていかなる守備位置でも球際に強く、しぶとい。決して多くは語らない。だけど、背中で引っ張っていく。2023年シーズンは、そんな中村晃の魅力が詰まった年になっている。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)