冷や汗ダラダラ「過呼吸になった」 自ら“119番”…佐藤直樹が味わった人生最大の激痛

ソフトバンク・佐藤直樹【写真:竹村岳】
ソフトバンク・佐藤直樹【写真:竹村岳】

牧原大成が「左大腿二頭筋損傷」で離脱…2安打1打点ですぐさま活躍

 ソフトバンクは28日、日本ハム戦(エスコンフィールド北海道)に6-3で勝利した。延長10回1死一、二塁で柳田悠岐外野手が決勝の2号3ランを放ち、試合を決めた。勝利に貢献したのは「2番・中堅」で先発した佐藤直樹外野手。2安打1打点、犠打で柳田のV弾も呼ぶなど、スタメン起用に応えてみせた。

 まずは1回1死、左翼への二塁打で出塁すると、続く近藤健介外野手の適時二塁打で先制のホームを踏んだ。3回無死二塁では、バントの構えからサッとバットを引き、バスターでとらえた打球が二遊間を抜けていく適時打となった。「(野手が前に)チャージしてきたので、バスターに切り替えました。追加点を取ることができて良かったですが、センターラインは外さなければいけない」と反省もしつつ、貴重な追加点につなげた。

 延長10回、無死一塁で投前に犠打を決め、2番打者としての役割を果たした。この日、牧原大成内野手が「左大腿二頭筋損傷」と診断され離脱を余儀なくされたが、すぐさま外野の一角を埋めてみせた。佐藤直自身も1月25日に「鏡視下腹腔鏡虫垂摘出術」を受けて手術と入院を経験。晴れ舞台に戻ってくるまでは、苦労の連続だった。

 1月のある日。PayPayドームに来て練習していたが「朝から調子が悪いなって思っていたんです」。帰ろうとした時には、もう自分で運転できないほど体調は悪化していた。谷川原健太捕手に送ってもらい、病院で最初の診断は手術を要するものではなかった。ただ帰宅してからも「その夜にめちゃくちゃ痛くなってきて。最初はなんか背中から痛くて、全体的に痛くなってきて、最後はもう激痛でした」という状況。再受診をすぐに決意した。

 しかし、その日はあいにくの大雪で、タクシーを捕まえることもできなかった。「救急車を呼ぶほどではないよな」と思っていたが、思わず背中が丸まり、冷や汗がダラダラ出てくるほどの激痛にもう我慢できなかった。「汗も止まらんし、痛すぎて過呼吸になりました」と“119番”を押して、自ら救急車を呼んだ。医師からの第一声は「明日、手術してください」。お腹にはメスの痕が今も残っている。

 5日ほどの入院を余儀なくされた。くしくも、球団から手術を受けたと発表されたのは、春季キャンプの組分け発表日。佐藤直は当初はA組だったものの、自宅療養でキャンプインを迎えた。ライバルたちが球春を迎えて汗を流す一方で、練習さえ許されず「もどかしかったです」と歯がゆい日々を過ごした。

「人生で一番痛かったですけど、怪我とかじゃないから。仕方ないと受け入れもした。しっかり治すことが大事だと思いました」

 復帰してからも、トレーニングは制限された。「お腹を切っているから、腹筋に力が入らんくて」と、打撃において大切な腹筋を鍛えることもできなかった。「あんまり腹圧をかけない方がいいと言われて、体幹(トレーニング)とかも最初はしていなかったです」。バッティングではなかなか力が入らず、フォームを探すところから始まった。戦える状態にまで戻せたのは、佐藤直の身体能力があってこそだった。

 3月に待望の実戦復帰を果たした。オープン戦の終盤に活躍したことで、開幕1軍にも滑り込んだ。「最初は『どうなるやろう』と思ったんですけど、時間がたてば意外と普通に動けました」と今は晴れ舞台を心から楽しんでいる。「野球ができるのは本当にありがたいです」と感じた健康のありがたみを胸に、佐藤直はグラウンドに立つ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)