2軍のタイトル保持者が1軍で活躍できない謎 元ファーム本塁打王が指摘する“2軍慣れ”

ソフトバンク・猪本健太郎ブルペンキャッチャー【写真:竹村岳】
ソフトバンク・猪本健太郎ブルペンキャッチャー【写真:竹村岳】

2014年に17本塁打でウエスタン・リーグの本塁打王を獲っても「何も変わらない」

 1軍と2軍は明確に違うものだ。2軍で抜きん出た結果を出したからといって、必ずしも1軍で通用するわけではない。殻を打ち破り、スター選手になっていけるかどうかは選手にとって永遠の課題だ。ソフトバンクの猪本健太郎ブルペンキャッチャー(以下、BC)も現役時代にファームで本塁打王の経験があったが、1軍と2軍の間にある違いをどのように感じたのか。

 「そうですね……。違いですか」と考えた末に、自らの経験を語ってくれた。

「意識です。意識と、明確にいうなら投手のレベルも違う。結局1軍ではヒットを3本しか打てなかったんですけど、2軍ではそこそこやらせてもらって、何かしら自分の中で覚悟を持って、腹をくくって野球に向き合えば、ある程度はいくんじゃないかなと。そこから先(1軍で活躍できれば)は考えることも増えると思いますけど、僕はそこまでの選手でした」

 猪本BCは2008年に育成4位で熊本の鎮西高からホークスに入団した。高校通算31本塁打の長打力が魅力で、6年目の2014年にウエスタン・リーグで17本塁打を放って本塁打王となった。ファームでの“キング”の経験は「ホームラン王を取って支配下になったので、数字は評価してもらえるところ」とした上で「でも何も変わらないですよ」と自虐的に笑った。

 シーズン中に2軍から昇格した選手が、いきなり何十打席もチャンスを与えられることはほぼない。限られたチャンスの中で結果を出し、少しずつ自分の立ち位置を確立していくしかない。その現実を一番わかっているのは、選手自身だ。投手のレベルも格段に上がる。緊張とリラックスのバランスを取り、打席に立つことは、見ている側が思っているほど簡単ではない。

「それ(2軍でやってきたことを)を1軍でできるか、できないか。緊張もするし、2軍とは違う自分が出てきてしまうので。僕はそういう気持ちやったし“この1打席に懸ける”みたいな思いでいた。それがいいか悪いかなんて、ね。力んじゃうことにもなるし、力を抜くことは難しいです。2軍でずっと出ていたら緊張もしなくなるし、そういうところのために2軍でやってほしいですね」

 今のチームで言えば、昨季にリチャード内野手がウエスタン・リーグの新記録となる29本塁打を記録した。しかし、1軍では3本塁打と苦しみ、今もファームで汗を流している。猪本BCも「いつでも1軍でやれる技術はあるだろうし、ファームで29本なんて本当にすごいことです。いろんなものを試して、自分に合うものを見つけてくれたら」と姿を重ねた。いつの時代も、積み重ねてきたことを1軍の舞台で発揮できるかが活躍の鍵となる。

 猪本BCは2017年オフにロッテから戦力外通告を受けて、現役を引退。ソフトバンクから裏方としてのオファーをもらって、第2の人生が始まった。セカンドキャリアについては「実家が自営業をやっていたので、色々考えました」というが、選んだのはブルペンキャッチャーの道。現役生活を全力で駆け抜けたからこそ、今の選手に思うことは1つだけだ。

「そういうのも踏まえて思うのは野球選手って明確じゃないですか。野球する場所を与えてもらえて、環境も整えてもらえる。それを一途に目指せるのは尊いこと。若い子たちにはそこを目指してやっていってほしいなと思いますね。ホークスはめちゃくちゃいい球団なので。終わればあっという間ですから。もう一回やれって言われたら、また考えると思いますけど(笑)」

 プロ野球選手として自分だけが通った道がある。裏方さんとしてホークスを支えることが、今の猪本BCの人生だ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)