“2番手捕手”ならではの難しさ… 高谷裕亮コーチが大切にした試合中のメリハリ

ソフトバンク・高谷裕亮2軍バッテリーコーチ【写真:竹村岳】
ソフトバンク・高谷裕亮2軍バッテリーコーチ【写真:竹村岳】

8日の西武戦で海野が途中出場…高谷コーチが現役時代に心がけていたことは

 捕手とは特殊なポジションであり、捕手にしかない難しさがある。1軍はここまで、甲斐拓也捕手が全試合で先発出場。海野隆司捕手と嶺井博希捕手はベンチスタートが続いている。最善の準備こそしているが、2番手捕手の難しさを見た試合があった。

 8日の西武戦(宮崎)で大関友久投手と甲斐がバッテリーを組んだ。愛斗に先頭打者弾を浴び、0-1のまま試合は9回へ。8回の攻撃で甲斐に代走が送られたため、9回からは海野がマスクを被った。1死から山川に四球を与え、その後に2失点。試合を決定づけさせてしまい、海野自身もしっかりと結果を受け止めていた。

 先発出場と、途中出場。ポジションによって違いはあるが、捕手が試合の途中からマスクを被るのは簡単なことではない。海野は両方を比較して「スタメンの時は、ゼロから作る。途中からいくのはゲームを壊したらいけないので。一番きついと思います」という。すでに動いている試合の流れに飛び込むには徹底的な準備が必要だが、グラウンドにいるからわかることがあるから、それは簡単ではない。

「間近で反応とかを見ていないので、難しいです。雰囲気というか、色々つながるところがあるので。前の打席からのつながりとか、前の打席がこうだったとか、近くで見ていたらわかる。途中からいったら、ベンチで見ているのと実際に見ているのは全然違う。そこが難しいです」

 捕手のリードは前の打席はもちろん、前日や前カード、時には前年の引き出しを用いて挑むこともある。その打席だけではなく、自分が知る全てのつながりを持ってして打者と対峙しており、それはマスクを被っているからこそ肌で感じられることだ。だから海野も「自分で被って試合を作っていないので、途中からは難しいです」と経験を積んでいるところ。「次は出たところでちゃんと仕事をしたい」と、やり返す気持ちを持って日々を過ごしている。

 途中出場の経験が豊富なのが、高谷裕亮2軍バッテリーコーチだ。通算643試合に出場して晩年は“抑え捕手”とも呼ばれ、多くの引き出しを使って投手陣を引っ張った。高谷コーチが途中出場していく際に、心がけていたことはどんなものだったのか。

「投手とよく喋っていました。とにかく状況と、相手バッターの状態と、前回の対戦とかも踏まえて、じゃあどうしていこうかを考えていました。途中からいくってわかるじゃないですか。試合中にブルペンにいったりして、そこでピッチャーと話をして。『今日はこういう状態だから』っていう確認もしていました。うまくいくかはあれ(その時次第)ですけど、準備としてはそこまでしていました」

 試合中に先発投手と、先発マスクの捕手がベンチで言葉を交わすシーンがある。そこには高谷コーチもスッと座り、耳を傾ける。「そばに座って。僕の中で感じることもあるので、聞かれたら伝えます」。全ては自分がマスクを被った時に、スムーズに試合に入っていくため。「自分がどう見えているのか、常に感じておかないといけないですよね。じゃないと、いざという時にいけないので」と続けた。

「流れを読んでおくことですね。何かポイントが絶対にあるんです、点差とか状況的に。2死にしてでも、満塁にしてでもゼロで帰ってこないといけない時とか。この打者には回したくない、とか。球数をかけないといけないところとか、打順の巡り的にここで切っておきたいとかも絶対にあるし、これはもう話すと長くなります(笑)。そういうの(プラン)も投手と話して考えを合わせておかないといけない」

 同じ1死満塁でも、絶対に失点したくない状況もあれば、犠飛などで1点を失ってもいい状況もある。「それって、やっていって覚えることもある。僕だって入ってきた時はわからなかった」と、何度も修羅場をくぐり抜けることでようやく身についていくことだ。海野自身も今、成長しようとしているところ。力を貸してくれる人に耳を傾けて、グラウンドでのパフォーマンスにつなげればいい。

「反省した時に、何ができたのかしっかり話すこと。準備をするならスコアラーさんに資料をもらったり、コーチと話もしたり、全部を活用すればいいんです。わからないなら、わからないでいいんですよ。わかっていないのにわかっているということが一番よくない」

 取材を終えて「僕のことはいいんです」という姿も高谷コーチらしかった。経験が大切なポジション。捕手の貢献全てが、チームの勝利につながってほしい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)