侍ジャパンの追加招集に悩んだ牧原大成 背中を押した斉藤和巳コーチからの言葉

侍ジャパンの一員として世界一に貢献したソフトバンク・牧原大成【写真:Getty Images】
侍ジャパンの一員として世界一に貢献したソフトバンク・牧原大成【写真:Getty Images】

第5回WBCで野球日本代表「侍ジャパン」が世界一…牧原大も追加招集から貢献

 第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で野球日本代表「侍ジャパン」が14年ぶりに優勝した。追加招集からVメンバーとなったソフトバンクの牧原大成内野手は「このすごい選手がいる中で、スタートからは試合に出ることはなかったですけど、最後の瞬間に守備に就いて、優勝を迎えられたことは僕の中でいい経験になりました」と濃密な日々を振り返っていた。

 2月28日、鈴木誠也外野手(カブス)が左脇腹を痛めて出場を辞退した。2021年の東京五輪でも4番を務めた主砲の辞退により、代役の選出が急務となった。声がかかったのが、どこでも守れるユーティリティ性が武器の牧原大だった。藤本博史監督からも「今すぐ返事せんでええから、1日考えてから返答したらどうや」と時間をもらい、3月1日に球場に着いてから出場を決断した。

 春季キャンプ中、牧原大の1日はアーリーワークから始まるのが通例だった。朝早く球場にきて備えるのがルーティンとなっており、それは出場を決めた3月1日も同じだった。ただ、この日は練習よりも、招集を受けるかどうかに頭を悩ませていた。打診から一夜明けても、早朝から思い悩む姿を見ていたのが西田哲朗広報だ。「どうしよう……」「めちゃくちゃ迷います」。そんな言葉に自分なりに耳を傾けた。西田広報が力を借りようと思ったのが、斉藤和巳1軍投手コーチだった。

「みんないってほしいと思っていたと思う。和巳さんならポジティブなことを言ってくれると思って、偶然、近くにいらっしゃったので。『ちょっと、ケツ叩いてやってくださいよ』って」と西田広報が経緯を明かす。斉藤和コーチにお願いすると、すぐさま動いてくれた。はっきりとした口調の中に、牧原大への思いやりも込めて、こう伝えた。

「『悩む理由がわからん。いく以外の選択肢、なくないか?』って本人の前で言いました。『え?』って言っていましたけど。そんなチャンスないんやから。色々不安もあるんやろうけど、それがいいんやんかって。これ以上の経験はないよ。日の丸は簡単に背負えないから。あの緊張感なんて、なかなか味わえるものじゃない。野球人生において、プラスしかない」

 練習前の円陣で藤本監督の口からナインに侍入りを伝えられたのが午前9時前。西田広報と斉藤和コーチの言葉から、直前の直前まで悩んでいたことがわかる。斉藤和コーチ自身、2005年に16勝1敗で最高勝率(勝率.941)のタイトルに輝くなどまさに全盛期でコンディション面も「万全の体調だった」と振り返るが、2006年のWBC第1回大会には選出されなかった。日の丸を背負いたくても背負えない気持ちは痛いほどわかるから、チャンスをつかんでほしかった。

「(2006年は)選ばれていたら喜んで出たよ。だって選ばれないと、出られへんねんで? 俺は出ていたとしても、出ていなかったとしても、同じ感じで(牧原大に)言っているよ。出たら出たでもっと言っているやろうし、出ていないのに言っているくらいやから」

 牧原大自身、今春のキャンプでは中堅一本で勝負すると宣言していた。実戦形式でも結果を出し続けていただけに、出場機会が限られることが予想される侍ジャパンにいく不安もあったはず。世界の注目を集めるWBCで、ミスした時のことも牧原大は考えてしまっていたようだ。それでも斉藤和コーチは「それも含めてプラス。マイナス要素は一切ないから」と、とにかく背中を押しまくった。その他の人間からの後押しもあったはずだが、2人の存在が追い風になった。

 結果的に侍ジャパンは世界一となり、米国との決勝戦では牧原大はゲームセットの瞬間に中堅を守っていた。まるで漫画のような「大谷翔平vsマイク・トラウト」のラストシーンも、センターという真後ろの“特等席”から見ることができた。打撃面でも2打数1安打1打点。守備固めだけではなく、しっかりと記録に残る成績まで残してホークスに帰ってくる。

 斉藤和コーチも、その活躍を喜ぶ。「最終的には本人の決断。その決断に間違いはなかったと思ってほしいね。世界一の瞬間にグラウンドにいたんやからさ。最高やんか、よく決断したよ。背中を押されても、決めたのは本人なんやから」とうなずいた。何倍も何倍もたくましくなった牧原大との再会を、斉藤和コーチも楽しみに待っている。

(竹村岳 / Gaku Takemura)