今宮健太はなぜ二塁挑戦を受け入れた? 34歳で新たな試み …「今後の野球人生の中でも」

今宮健太【写真:竹村岳】
今宮健太【写真:竹村岳】

心中激白「基本16年間ずっとショートで。難しい」

 宮崎の地で悪戦苦闘しながらも、新たな挑戦に踏み出しているのが今宮健太内野手だ。遊撃手として5度のゴールデン・グラブ賞を受賞した名手はこのキャンプ、守備練習でセカンドのポジションにも入っている。なぜ、小久保裕紀監督からの二塁挑戦の打診をすんなりと受け入れたのか。その心中を「鷹フル」に独占激白した。

 今宮にとって14年連続の開幕ショートスタメンというプロ野球新記録がかかる今シーズン。ただ、このキャンプではこれまでにない景色が広がっている。約20年間、一筋で守り続けてきた“聖域”だけでなく、未経験に近い二塁でも打球を追う。名手といえど、慣れないポジションに戸惑いは隠せない。

 二塁守備の感触を問うと、率直な言葉が返ってきた。

「難しいですね。練習レベルだったらまだマシかなとは思うんですけど、これがゲームレベルになってくると多分、現状じゃ厳しいと思います」

 これまで守ってきた遊撃とは全くの別物だと、今宮は言う。「打球の距離感はあまり変わらないと思うんですけど、角度が変わるだけで、どういう動きで入っていけばいいか……。そういうのも難しいですね」。見える景色も違えば、飛んでくる打球の角度も違う。身体の使い方も異なり、一筋縄ではいかない。

 プロ2年目に1軍で一塁手として11試合に出場した経験はある。それでも「プロに入って16年間、基本はずっとショートをやってきたので難しい。サードとファーストは守ったことがあるんですけど、またそれとは全然違う。ファーストは捕ればいいと思っていたので」。繰り返される「難しい」という言葉に、偽らざる実感が滲む。

 今宮といえば遊撃手というイメージは強い。当然、今宮自身もこだわりと誇りを持っている。にもかかわらず、なぜ昨オフに小久保裕紀監督から打診された二塁への挑戦を受諾したのか。そこには近づくキャリアの終焉と、チームに対する“切実な本音”が隠されていた――。

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続きの内容は

ショートへの矜持を胸に、二塁挑戦を決断した理由
34歳が初めて直視した、自身の「引き際」と切実な願い
名手の心を動かした「献身的な姿」を見せた盟友の存在

「まだショートのプライドを捨てたわけではない」

「もちろんまだショートのプライドを捨てたわけではない」

 今宮はキッパリと、譲れぬ思いを口にした。狙うは遊撃のポジション、そしてレギュラーの奪還。その大前提の上で、指揮官の打診に首を縦に振った。

「『(二塁の練習を)やっといてくれ、それも考えておいてくれ』と言われたので。試合に出場するためにはショートだけじゃなくて、他のポジションもできれば可能性は広がってくる。そこを考えればやれた方がいいと思いますし、今後の野球人生の中でもやっておけば、なにかプラスに働くこともあるかな、と。やることでなにか発見があるかもしれないですしね」

 かつて「自分にはショート以外に需要はない」とこぼしたことがある。打撃で突出した数字を残すタイプではないからこそ、遊撃以外の居場所はないと考えていたからだ。昨季は度重なる故障に悩まされ、わずか46試合の出場に終わった。チーム事情や自身の立ち位置、34歳という年齢、そしてポジション争いの構図……。現実を痛いほど理解している。

 自身のキャリアの行く先、そして近づいてきている“終焉”を意識せざるを得ない現状。セカンドを守ることで、キャリアを1年でも2年でも延ばせるかもしれない。その可能性に賭ける決断でもあった。

「もちろん、それしかないですよ。それが近いんで、一番。これから、あと10年やるかと言ったら、正直無理ですし。今まで散々、チームに色々なことをやってもらったので。そこを考えれば、少しでもチームのために貢献して、何かしらできたらなという思いもあります。だんだん、そういう思いも芽生えてきています」

 淡々とした口調の中に覚悟が宿る。長年チームに支えられてきたからこそ、残された時間で少しでも恩を返したい。1年でも長く、少しでもこのホークスのためになりたい。遊撃一筋を貫いてきた男の、今の願いでもある。

 今宮の考えに影響を与えた存在がいる。同じくベテランの中村晃外野手だ。昨季は「代打専門」として開幕を迎えたものの、チームに怪我人が続出すると、急遽の方針転換でスタメン出場を求められるようになった。突然の役割変更にも対応し、チームを救った中村晃の姿を今宮は見てきた。

「『よしこれ(代打)でいくか』と踏ん切りつけた中で、コロッと(役割が)変わる。それはそれで難しいことであって、本当にすげえなと思います。絶対に文句も言わないですし」

 代打要員からスタメンへ――。心の準備も切り替えも容易ではない中で、文句ひとつ言わずに結果を出す。長年見てきたチームメートの姿が、今宮の背中を押した。

「人生において、経験は色んなところで生きてくると思うので。なんといっても、まずはゲームレベルでしっかり出られるかどうかっていうところだと思います」

 ショートへの矜持と、チームへの献身。2つの思いを胸に抱きながら、今宮健太の17年目が始まる。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)