プロ入りも「素直に喜んではくれなかった」 感謝する恩人…ドラ5高橋の人生変えた出会い

ドラフト5位で入団した高橋隆慶【写真:竹村岳】
ドラフト5位で入団した高橋隆慶【写真:竹村岳】

ドラフト5位高橋の人生変えた金沢監督との出会い

 2025年ドラフトでホークスは支配下選手5人、育成選手8人を指名しました。鷹フルではチームの未来を担う新人を紹介します。第3回はドラフト5位の高橋隆慶内野手。JR東日本から入団した右の大砲候補。プロ入りした背景には、高校時代の恩師の存在がありました。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 今年のドラフトでは、茨城・明秀日立高出身の選手が4人指名された。高橋もその1人。同校の恩師・金沢成奉監督はこれまで坂本勇人(巨人)や細川成也外野手(中日)らを育て上げてきた。「自分の野球人生を変えてくれた人ですね」。高橋はそう感謝を口にした。

 明秀日立、中大を経てJR東日本へと進み、24歳にして念願のプロのユニホームに袖を通すことになった高橋。ドラフト指名後に恩師へ連絡すると、返ってきたのは意外な言葉だった。「自分がプロに入ったことを素直に喜んではくれなかったというか……」。そこには名将なりの“親心”があった。

会員になると続きをご覧いただけます

続きの内容は

苦境で見抜いた名将の「厳しさ」の真意
「お前がプロかあ…」に隠された恩師の“親心”
細川・増田とは違う「理想のルート」の全貌

 2人の出会いは中学3年時。当時、軟式野球部でプレーをしていた“原石”の素質を見抜いたのが金沢監督だった。「一番最初に声をかけてくれたのが金沢監督だったんです。坂本選手を育てたすごい人っていうのは両親からも聞いていました」。

 同じ茨城県内とはいえど、実家の古河市から高校のある日立市までは気軽に通学できる距離ではない。「(人気漫画の)ダイヤのAが流行っていた時期だったこともあって、寮生活にも憧れていた」。プロなどの大きな目標を立てていたわけではなく、当時は軽い気持ちで明秀日立入りを決めた。一方で、同校は県外からも硬式経験者が数多く進学していた。

「入った時から引退するまで本当に大変でした(笑)。大阪のシニアやボーイズからきている人とすごい差も感じましたし、体力の面だけでなく精神的にもきついなって思うことは沢山ありましたね」

 そんな高橋に対して、金沢監督はあえて優しくは接しなかったという。「自分が苦しい時でも、自分に厳しくしてくださりましたね。それが逆に、自分にとってはありがたかったです」。乗り越えられる力があることを名将は見抜いていた。「優しい言葉をかけられていたら、心が折れていたかもしれない」。

 夏の県大会デビューは高校3年になってからだった。それでも、金沢監督の指導によって力を伸ばし、4番に座ることもあった。卒業後は中大へ進学。そこで、プロを間近に感じるようになった。

 入学時、4年生には牧秀悟内野手(DeNA)や五十幡亮汰外野手(日本ハム)、2年生には森下翔太外野手(阪神)がいた。“戦国”と呼ばれる東都大学野球連盟で外野手として躍動。通算54安打を重ね、4本塁打、19打点をマークした。

「周りにプロに行く人が多かったので。レベルを目の当たりにして差を感じたんですけど、自分も行きたいって思うようになりました」。そして迎えた4年時のドラフト会議。同年のドラフト会議では同期の西舘勇陽投手(巨人)をはじめ、1位指名された12人のうち7人が東都から選ばれた。高橋の名前は呼ばれなかったが、卒業後にJR東日本に入社。2年遅れて、プロ野球選手の夢を叶えた。

金沢監督への報告…受け取った意外な言葉

 金沢監督には電話でプロ入りを伝えたが、返ってきた言葉は純粋な祝福ではなかった。

「『お前がプロかあ……』って言われました。ホークスに決まってから2、3回、電話だったり会ったりして話しているんですけど、その都度同じ言葉を言われます。自分の身体で生計を立てるしかない厳しい世界で『お前がやっていけるのか』みたいな」

 教え子の吉報が嬉しくないわけがない。ただ、おとなしい高橋の性格を熟知しているからこそ、心配が上回った。そんな恩師の言葉に高橋は「やっぱり自分のことを本当にわかっているんだなって思います」と嬉しそうに語る。

 もう1つ、高橋が受け取った言葉がある。「『これが“理想のルート”だよ』って。細川さん、増田(陸)さんとはまた違った期待をしているとを言われましたね」。大学、社会人へと進むにつれ、プロへの門は一層厳しくなる。さまざまなカテゴリーを経験して手にしたNPBの切符は、野球人生に必ずプラスになる。

 そんな心配をしてくれた恩師を安心させるためにも、まずは1軍の舞台で活躍することを誓う。「金沢さんは期待はしていないと思いますので(笑)。耳に入るくらいの活躍をしないといけないですね」。そう茶目っ気たっぷりに意気込んだ。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)