野村勇が羨ましかった佐藤直樹の“性格” 2人で交わした約束「見返したろうや」

野村勇(中央左)と佐藤直樹(中央右)【写真:小池義弘】
野村勇(中央左)と佐藤直樹(中央右)【写真:小池義弘】

送別会には10人が集結…野村が明かした“舞台裏”とは

 ありのままに突き進んでいく姿が、羨ましかった。「寂しいですね……」。肌寒くなったみずほPayPayドームで、そう漏らしたのは野村勇内野手だ。12月9日に行われた現役ドラフト。ホークスでは佐藤直樹外野手が楽天に移籍することが決まった。大好きだった「親友」との別れ。「僕は直樹みたいな性格になりたいんです」。打ち明けた野村の真意に迫った。

 ともに明るいキャラクターが共通点だ。野村がプロ入りした2022年から、自然と距離感は近くなっていった。1軍で戦い、日本一に貢献した今季は遠征先で何度も食事に出かけた。塁上で行うパフォーマンスも一緒に考え、笑顔が絶えなかった時間は大切な思い出だ。「親友やったんでね」。照れ笑いしながらも、“特別”な関係性であることも認めていた。

「現ドラで移籍が決まった時は、電話がかかってきました。『ここから出て行くことになりました』と」。力を合わせて、日本一をつかみ取った2025年。忘れられない親友との思い出がある。濃密な1年間を、静かな口調で振り返った。

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続きの内容は

優勝決定直後に2人が交わした「特別な約束」
野村の迷いを消した山川穂高の「ある一言」
「直樹みたいな性格に」野村が告白した“真意”

リーグ優勝を決めた西武戦…苦笑いで振り返る歓喜の瞬間

 現役ドラフトの数日後に、送別会が行われた。参加したのは大津亮介投手、長谷川威展投手、津森宥紀投手、大関友久投手、海野隆司捕手、栗原陵矢内野手、そして今季まで球団スタッフだった重田倫明さんと庄嶋大一郎さん。合計10人で焼き肉を食べながら佐藤直を送り出した。乾杯の音頭を取ったのは栗原だったといい、野村も「全然しんみりとかしていなかったですよ。普通に、ご飯食べて『頑張って』って感じでした」と振り返った。

 野村の記憶に深く刻まれているのは、9月27日。リーグ優勝を決めた西武戦(ベルーナドーム)だ。ゲームセットまで、あとアウト2つ。9回1死一塁の場面で野村のもとに打球が飛ぶと、「6ー4ー3」の併殺を完成させた。このラストプレーでマウンドに歓喜の輪が生まれると、真っ先に野村の胸に飛び込んできたのが佐藤直だった。

「あれは最初から『一番に行く!』って2人で話していたんですよ」。すでに川瀬晃内野手、中村晃外野手と抱き合っていた野村だが、視界に入ってきた佐藤直を見て、すぐさま“約束”を思い出した。「僕は守っていたから、ショートからマウンドに行くまで早かったんですよ。直樹の方がちょっと気を遣ったかもしれないですね」。苦笑いを浮かべつつ、大切な思い出を振り返った。

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「僕は直樹みたいな性格になりたいんです」

 今年2月の春季キャンプは、2人ともB組から始まった。「僕たちは技術のない“身体能力系”の選手なので。それを分かっていたから、『マジで俺らで見返したろうや』ってずっと言っていましたね。割と結果を出せたので、これからもっと2人で上り詰めたかったです」。秘めるポテンシャルは誰もが認めるところ。1軍で活躍を果たした裏側には、「見返したろうや」という2人だけの“合言葉”が存在した。「僕は直樹みたいな性格になりたいと思っているんです」。そう打ち明けた野村は、その真意を口にした――。

「あいつはすごく気持ちを前に出すし、人の目も気にしない。感情が赴くままに動くんですよね。僕はそういうのができないので、『お前の性格になりたいわ』って言っています。本人は直したいらしいし、やりすぎなところもあるかもしれないですけど、あそこまでできるのはすごいなと僕は思って見ていました」

佐藤直樹の送別会【写真提供:庄嶋大一郎さん】
佐藤直樹の送別会【写真提供:庄嶋大一郎さん】

 これまでのキャリアにおいて、結果を出せなかった時、野村の胸中には迷いが生じていた。「やばい、やばい」「変えなあかん……」。思うように感情表現ができず、自分だけの“芯”を作れずにいた。一方で佐藤直は、どんな時も気持ちを前面に出してプレーする。「僕は『ミスった』ってなってしまっていた。直樹は抑えきれないくらい悔しいってことじゃないですか。それが良くない時もあるかもしれないですけど、僕はそういうところが羨ましいですけどね」。

 今季は持ち前の長打力を発揮した一方で、122三振を記録。確実性に課題を残してきたが、その“中身”はこれまでとは全く違った。「三振したらあかんと思ったらドツボにハマるし、山川(穂高)さんにも『同じことをやり続けるしかないから』と言われていたので。やること自体は決まっていたし、迷わなかったですね」。12本塁打、102安打というキャリアハイの成績こそ、迷いを消してきた証だ。福岡と仙台で離れ離れにはなったものの、佐藤直の存在を力に変えながら、もっと輝いてみせるつもりだ。

「直樹にとってはチャンスなんじゃないですかね。僕も頑張ります」。ともに兵庫県神戸市で生まれ育ち、福岡でチームメートとなった2人。どれだけ成長を遂げたとしても、下積み時代の“反骨精神”を絶対に忘れない。「俺らで見返したろうや」――。関西弁で誓った大切な合言葉を胸に、それぞれの道を歩いていく。

(竹村岳 / Gaku Takemura)