澤柳亮太郎が乗り越えた壁 退団左腕から突然LINE…感謝した存在「ほぼ大城のおかげ」

澤柳亮太郎【写真:竹村岳】
澤柳亮太郎【写真:竹村岳】

復帰戦で術後最速の143キロをマーク

 復帰登板で感じたのは心地よい充実感だった。沖縄で開催されている「ジャパンウインターリーグ」で、澤柳亮太郎投手が長いリハビリ期間を経て実戦に帰ってきた。「最初はかなり緊張していたんですけど、結構楽しんでやれたと思います」。その表情は、マウンドがいかに充実した場所だったかを物語っていた。

 復帰登板前日の今月2日、澤柳は自身のインスタグラムに愛用のグラブの写真を投稿していた。「なんて言えばいいんだろう……。自分的には『ちょっと燃えている』感じですね。『やってやろう』みたいな感じでした。グローブもやっぱり、1年間ずっとリハビリを共にした“相棒”なので。写真を上げました」。苦楽を共にしてきた感謝を込め、戦いの場へと向かった。

 いざ球場に到着すると、不思議と心は落ち着いていた。「とにかくもう力まないで、落ち着いていこう」。そう自分に言い聞かせることができたのは、視線の先に安心できる存在がいたからだった――。

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続きの内容は

・復帰登板直前、大城真乃が澤柳に送った「LINE」
・140キロを目前で止めていた「無意識のブレーキ」の外し方
・和田毅・武田翔太が贈った「2年」という言葉の意味と真意

退団する左腕がくれた安心感

「大城(真乃)がいて、キャッチボールも大城としました。2軍でもずっと一緒にキャッチボールをやっていたので、すごく落ち着いてやれたんです。ほぼ、大城のおかげですね。正直に言うと」

 澤柳がチームに合流する前日、今季限りでホークスを退団することになった大城真乃投手からLINEがあった。「(沖縄に)来るんですよね? 明日同じチームですよ」。後輩からの連絡に、澤柳は「えっ? やったー」と心を躍らせたという。

「『よろしくね。いつから来てるの?』と聞いたんです。すごく堂々としていたので、最初からいるのかと思ったら『昨日からです』って(笑)。やっぱり堂々としてるなと思いました」。復帰登板だからといって、特別な言葉はいらない。飾り気のない大城の空気感が、右腕の肩の力をふっと抜いてくれた。

術後最速「143キロ」が意味する“見えない壁”の突破

 この日、澤柳は術後最速となる「143キロ」をマークした。数字を確認した瞬間、胸中に“安堵”が広がった。「めっちゃ嬉しかったです。ずっと140キロを狙っていたので。『出るかな?』と思っていったら143キロと言われて、良かったって」。術後の投手にとって、球速を上げることは“恐怖心”との戦いでもある。「トミー・ジョンって、1個ずつ壁を越えていく作業って感じなんですよね」と、澤柳は独特な表現でその感覚を明かした。

 リハビリを終えたからといって、すぐに元通りになるわけではない。そこには無意識の防衛本能が働くという。「出力を自分で止めている感じがあります。その壁を超えた先に、次は145キロの壁があって、超えたら次は150キロとかで……」。5キロ刻みの“見えない壁”。ウインターリーグに行くまでは「140キロの壁」の前で足踏みをしていただけに、表情は晴れやかだ。「本当に140キロ出ないなって。なんか自分で止めてるものがあって」。無意識にかかっていたブレーキを、復帰のマウンドで1つ外すことができた。

「馴染むのは2年」…焦りを消した先輩の言葉

 焦りは禁物だということは、偉大な先輩たちが教えてくれた。「和田(毅)さんとかも『本当に馴染んでくるのは、やっぱり2年だよ』って言っていました。武田翔太さんも言っていたので」。イメージ通りに腕を振っても、球速が130キロ台しか出ないこともある。「去年の感覚なら、これで150キロとか出てるだろうなと思うことはあるんですけど……」。それでも、今は気持ちのコントロールがしっかりできる。

「焦る気持ちもあるし、球速が出なくてどうしようという気持ちもめちゃくちゃあるんです。でも、もう仕方ないものは仕方ないとして捉えて。ある意味、割り切れて投げられているのかなとは思います」

 自身の現状を受け入れ、一歩一歩ステップアップしていく過程を「逆に楽しむ」。そう語る澤柳の表情は、どこか吹っ切れたように晴れやかだった。「143キロ」――。それは完全復活への通過点だが、その数字は恐怖心の殻を破り、再びプロのマウンドで戦う準備が整ってきたことの証だ。

(飯田航平 / Kohei Iida)