クラブチームからなぜ異例の指名? 担当スカウトが明かす衝撃…目的外から見つけた“隠し球”

育成ドラフト5位・鈴木貴大【写真:竹村岳】
育成ドラフト5位・鈴木貴大【写真:竹村岳】

育成5位の鈴木貴大はクラブチームから入団

 現代では珍しい、まさに“隠し球”といえる指名だった。育成ドラフト5位指名を受けた鈴木貴大外野手は8日、BOSS E・ZO FUKUOKAで行われた新入団選手発表会見に参加した。「プロでは打って走って守って、トリプルスリーを達成します」と力強く宣言した。

 神奈川・藤沢清流高から富士大に進学した鈴木だが、大学時代は控えでリーグ戦の出場回数はわずかに2試合。目立った成績は残せず、卒業後は一般企業に就職した。社会人として業務に従事する傍ら、2024年に発足したCLUB REBASE(クラブ リベース)で野球を継続していた。

 都市対抗の1次予選では4戦4発。強打者の片鱗を見せていたが、プロのスカウトから注目を浴びるほどではなかった。そんな24歳をホークスはなぜ獲得したのか――。担当の宮田善久スカウトが裏側を明かした。

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続きの内容は

初視察で判明した「一軍並み」の具体的数値とは
唯一マークしていたライバル球団との「予期せぬ遭遇」の真相
動画を撮らず「知らないフリ」をしたスカウトの苦渋の決断

「最初は他の選手を見にリベースに行っていたんです。その時にチームの関係者から『すごく飛ばす子がいるから見てください』と。見てみたらとてつもないスイングをしていたんです」。その場ですぐに打球速度やスイングスピードを計測。すると、1軍にも引けを取らない数値が出たという。

 それから本格的に調査を開始した。視察に訪れるたび、鈴木は逆方向やバックスクリーンへ柵越えを連発。「他のスカウトと『これはとんでもないな』と」。その言葉通り、都市対抗の1次予選では4戦4発。打率.692(13打数9安打)と圧倒的な成績を残した。

“隠し球”である以上、宮田スカウトが調査をしていることは察知されたくなかった。ただ、1チームだけ注目していた球団があった。ある日、リベースの試合を見に行った際に、その球団のスカウトと遭遇したことがあった。

 打球は1軍にも引けを取らない一方で、守備や走塁はいまだ荒削りだった。ホークスでは上位指名にはならない以上、他球団が先に指名することを避けたかった。「察知されたくなかったので、鈴木の動画を撮ることができなかったんです」。苦渋の決断で“知らないフリ”をした。

 その甲斐もあり、ドラフト会議では育成5位でホークスが指名権を獲得した。入団前の11月にはNPBの承認を得て、秋季練習に異例の参加。プロ選手としての第1歩を歩み出すまでには奇遇な縁、そしてスカウトの“駆け引き”があった。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)