契約更改に臨み720万円アップの1500万円でサイン
目に見える形で、“覚悟”を刻み込んだ1年だった。電話越しに突きつけられた危機感は、絶対に忘れない。「どういうことか、わかるよな?」。ソフトバンクの渡邉陸捕手が2日、みずほPayPayドームの球団事務所で契約更改交渉に臨み、720万円アップの1500万円でサインした。背番号を79から00に変更した特別なシーズンを過ごした。
今季は初めて開幕ベンチ入りを果たし、24試合に出場して打率.222、0本塁打、5打点。3年ぶりに1軍の舞台を経験したものの6月20日に登録抹消されると、その後は再昇格を果たすことができなかった。海野隆司捕手をはじめ、谷川原健太捕手、嶺井博希捕手という厚い“牙城”。「僕が2軍に落ちてからはチームも勝ちが続いていた。圧倒的な数字で、使わざるを得ないような状況にできなかったのは、僕の実力が足りなかったです」。手ごたえと同時に、壁を感じたシーズンでもあった。
2024年オフ、背番号が79から00になった。渡邉の意思というよりも、球団主導で行われた変更。編成担当者との電話で「(背番号を変えるということは)どういうことか、わかるよな?」と覚悟を問われた。期待の表れである一方で、このままではいけないという危機感を覚えさせられた言葉。1年を終えて、どんな感情を抱いたのか。思い出したのは、“師匠”である中村晃外野手の言葉だった。
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2025年の飛躍を予言した中村晃の「あと一皮」の核心とは
渡邉選手が「変わった」と実感した、元背番号79の行方
師匠・中村晃からの電話「ごめん」に渡邉陸が選んだ道
3年ぶりの1軍出場「いい思いばかりじゃない」
「数字を残す、1軍で結果を出す難しさは感じました。やっぱり簡単なことではないんだなって、終わってみても思います。去年のオフから練習する中で、ただがむしゃらにバットを振るだけではいけないなと感じましたし。試合で結果を出すための練習が必要だと、あらためて思いますね」
今年の1月、自主トレ中に中村が渡邉についてこう語っていた。「あとは、試合でどう打つか、じゃないですか。そこで一皮むければいい成績を残せる選手だと思います」。まさに教えを実感するような2025年。首脳陣の意図に応え、チームに必要とされる存在になれるかどうか――。「目先のことだけを見ていてはダメだなと思いましたね」と、背番号7の言葉を噛み締めていた。
昨年まで自分が着用していた背番号は、新入団の大西崇之外野守備走塁兼作戦コーチが着用した。「『自分は00なんや』っていうよりも、79番を見て『あ、変わったんだな』って思う方が多かったですね」。2月の春季キャンプ、些細なことであらためて実感を抱いた。00番を背負って戦った1年。「シーズンに入ってからは慣れましたね」。そう胸を張れるのは、後悔がないほど全力で駆け抜けたからだ。
「79番のグッズを球場に持ってきてくれる人もいたので、それは今でも嬉しいですし。着替えている時とかでも、アンダーシャツや靴下のは『00』って入っているわけじゃないですか。重要な場面で失敗もして、いい思いばかりじゃなかったですけど、久しぶりに1軍の試合に出ることができた。僕にとっては、背番号を変えてよかったなと思っています」
中村晃からは“断り”の連絡「できなくなった」
シーズンを振り返ると、関わってくれた人への感謝の気持ちは尽きない。みずほPayPayドームでのナイターゲームでは、嶺井を見習って朝早くから球場入りしていた。全体練習の前にティー打撃とフレーミングの練習は済ませておくように継続。早出練習に手を貸してくれたのは中村の自主トレをサポートする伊藤祐介打撃投手だった。「毎日朝早くから手伝ってもらいましたし、感謝しかないです」。深々と頭を下げる姿も、渡邉らしかった。
自主トレは、例年と同じく中村とともに行う予定だった。しかし、背番号「7」の先輩は「右第3/4腰椎椎間板ヘルニアにともなう経椎間孔的全内視鏡下椎間板切除術(TF-FED法)」を受けたリハビリ組に移行。「ごめん、できなくなった」と連絡が来た。「うわ、どうしようかな……」。最初は戸惑ったものの、“巣立つ”チャンスが訪れたのは間違いない。1月は福岡大の施設を借りて、鍛錬を積むつもりだ。
「毎年なんですけど、本当に来年は勝負の1年になると思う。この1年で野球人生が決まると思うので。終わった時に後悔がないようにやりたいなと思います」
00番への変更から1年。「どういうことか、わかるよな?」。あの日抱いた強い覚悟は、今も胸に刻まれている。プロ8年目を迎える2026年、もっともっと高く飛び立つ。
(竹村岳 / Gaku Takemura)