別生活を越えて…「今年は大事な年だった」
「守るべきものが増える」という覚悟は、これほどまでに人を強く、そして繊細にさせる――。 リーグ連覇、そして日本一へと駆け抜けたシーズン。正捕手として投手陣を牽引し、飛躍の年となった海野隆司捕手の表情には、激動のシーズンを走り抜けた安堵と、ある決断を下した“男の責任感”がにじんでいた。
SNSでは第1子の誕生を報告した。「今年頑張れた一番の要因と言っていいぐらいのことなので。それがあったから、今年は頑張れたっていうのもあります」と、少し照れくさそうに、しかし力強く語った言葉は、今季の原動力がどこにあったのかを物語っていた――。
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続きの内容は
・海野の覚悟を変えた杉山の「言葉」
・飛躍の裏にあった妻の献身
・日本一達成も…海野が首を振った「自己評価」
「今年に関しては(家族と)一緒に暮らしていなくて、妻は実家に帰っていたので。色々と気になったりはしていましたけど……」
愛妻の妊娠、そしてペナントレースという過酷な日々。当時の心境を尋ねると、海野の表情からふと、笑顔が消えた。言葉を切り、少し視線を落とす。別生活を送るという決断。それは「野球に専念させてくれている」という妻の献身への感謝であると同時に、一番近くにいてやれない夫としての葛藤の日々でもあったのだろう。
「その中でも自分は、何不自由なく野球に専念させてもらっていたので。本当にありがたいなと思ってます」。さらりと語ったその顔には、1人になったときに抱えていたであろう不安と、それを力に変えようとした孤独な夜の記憶が刻まれているようにも見えた。「今年1年は、いろんな意味ですごい大事な年だったのかなと思います」。
こぼした感謝…「あいつがいなければ今の自分はいない」
守るべきものができた男は、グラウンド上でも変化を求められていた。 昨年のシーズンオフには「今年は試合に出させてもらっていた」と話していたが、今季は違った。「結果を出さないといけない」という危機感を胸に被ったマスク。成長し、最高の結果を残した。
そんな海野を変えたのは、家族の存在だけではない。“相棒”がぶつけてくれた「本音」だった。
「話し合いの中で、杉山(一樹)から『お前のことを俺は信頼してるから、お前ももっと腹を括ってくれ』という言葉をもらって、そう感じたので。本当にあいつがああいう場でそういうことを言ってくれなかったら、今年の自分もいないかなと思うので。感謝しています」
バッテリー間の信頼。言葉にするのは簡単だが、極限の勝負の中でそれを体現するのは難しい。だが、海野は杉山と真正面からぶつかった。本音で語り合える仲間と、離れて暮らす家族。二つの「信頼」が、背番号62の背中を押し続けた。
「リーグ優勝というのは、自分の中でも一番の目標にやってきたので。それは達成できたので良かったです。キャッチャーはやっぱり『勝って評価されるポジション』ですし、勝たないと評価されないので。なんとか勝てるようにと思っていました」
悲願を果たしても、海野は「自分の中で地位を築けたとは思っていない」と首を振る。「来年に関しては見られ方も違うでしょうし、それは自分も感じながらやります」。そう語る口調には、覚悟と自信がにじんでいた。
離れて暮らした日々の寂しさと不安は、父としての強さに変わった。 仲間と本音でぶつかり合った出来事が、正捕手としての覚悟につながった。「グラウンドに立つ以上は、自分が引っ張るという気持ちでいます」。海野の瞳は来季のリーグ3連覇、そして日本一だけを見据えている。
(飯田航平 / Kohei Iida)