球団から高い評価も「順調は怖い言葉」
“恩師”に成長した姿を見せるためにも、来季こそ1軍にしがみつく。ソフトバンクの笹川吉康外野手が25日、契約更改交渉に臨み、200万円増の年俸1000万円(金額は推定)でサインした。高卒5年目の今季は、ウエスタン・リーグで本塁打と打点の2冠を獲得。シーズン後半に1軍再昇格を果たすと、優勝争いの正念場となった9月にはスタメン起用も増えた。「後半は状態が上がって、優勝争いにちょっとは貢献できたかなと思う」と振り返る。
球団から高い評価を受けたことに対し、笹川はあえて「『順調』というのは怖い言葉」と危機感を口にした。6年目を迎える来季に向け、自主トレは引き続き柳田悠岐外野手に弟子入りし、さらなる肉体改造を誓う23歳。そんな背番号44が口にしたのは、苦しい時期を支えられながらも、退団によって直接伝えられなかった恩師への感謝の言葉だった。
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続きの内容は
・松山2軍監督との秘話、3度の対話で得た「金言」
・柳田悠岐の元で笹川が確立を目指す「独自の流儀」
・球団の「順調」発言に笹川が抱く「怖い言葉」の正体
「喋れていないんですよ。いついなくなったのかな……。全く会わずに、連絡も取れずに。電話しようと思っています」
挨拶なき別れ… 退団した松山2軍監督への思い
笹川が思いを明かした相手は、今季まで2軍監督を務めていた松山秀明氏のことだ。球団から退団が発表された10月7日、笹川は「みやざきフェニックス・リーグ」に参加していたため、挨拶もできないままの別れとなってしまった。「お礼を言わなきゃなとは思っているんですけど……」。突然の別れに戸惑いながらも、その心には深い感謝が刻まれている。
思うような結果が出ずに苦しんでいた時期、支えになったのが2軍首脳陣だった。特に松山氏とは監督室や遠征先のホテルの部屋でひざを突き合わせて対話をする機会が3度もあったという。技術的な指導はもちろん、「もっと楽しそうにやれよ」と声をかけられるなど、親身になって話してくれた。後半戦で1軍に再昇格できたことも、恩師たちの言葉があったからこそだと振り返る。
「2軍で松山監督だったり、明石(健志スキル)コーチだったり、いろんな人に支えてもらった。そこで自分のモチベーションが上がったというか、助けられた部分があったので。感謝したいなと思います」
“恩返し”を果たすためにも、来季の飛躍は不可欠だ。オフのテーマは肉体強化。「ひたすらウエートトレーニングをします」と力を込める。来年1月の自主トレは例年通り“柳田塾”に参加することが決まっている。「真似とかはしていないんです。自分なりにオリジナルの感覚を掴んでいくしかない」。偉大な先輩から吸収するところは吸収するつもりだが、あくまで自分のスタイルを確立する覚悟だ。
柳田自主トレで目指す“オリジナル”
契約更改で、球団からは「順調に来ている」との言葉をもらったが、笹川自身に慢心はない。「『順調』というのは怖い言葉。このまま成長し続ければ順調ということになるんでしょうけど、うまくいかない年も当然あると思うので。順調に来ているとは言ってもらいましたけど、6年目にもなるので。順調ではないっちゃないですね」。年下の選手が力をつけてきた現状も踏まえ、自身の立ち位置を厳しく見つめ直す。
「もっともっと打球を飛ばして、もっと軽くホームランを打てるように。まだまだ体を大きくしていきたいなと思っています」
来季の笹川が目指すのは、開幕からの1軍定着、そして年間を通しての1軍帯同だ。そのためにも、柳田とのトレーニングでパワーアップした肉体を手に入れる。松山氏への感謝は、グラウンドで躍動することで伝える。笹川吉康が勝負の6年目へ向かう――。
(飯田航平 / Kohei Iida)