4月に左肩を負傷…フォーカスしたのはウエートトレ
戦線を離脱しながらも、確実に爪痕を残したシーズンだった。テレビの向こう側で若鷹が躍動する姿を、自身の原動力へと変えたのは「負けず嫌い」の気持ちだ。正木智也外野手にとって今季は4年目のシーズン。リハビリ中、常に抱いていた思いを赤裸々に打ち明けた。
今季は開幕スタメンを射止めたものの、4月18日の西武戦(ベルーナドーム)で左肩を痛めて長期離脱。亜脱臼で「バンカート修復術」を受け、全治5~6か月と診断された。「最初は本当にできることが少なかったので」。そう苦笑いしつつ、ウエートトレーニングにフォーカスした。絶対にレベルアップするという向上心を忘れることなく、地道なリハビリ生活を乗り越えてきた。
9月上旬に実戦復帰を果たすと、10月の「みやざきフェニックス・リーグ」では結果を残した。日本ハムとのクライマックス・シリーズでは1軍昇格。半年ぶりの安打に加え、スタメンでも起用されるなど、緊張感あふれるポストシーズンで存在感を示した。一時は今季絶望とすら思われた状況からでも諦めなかった。突き動かしたのは、シンプルな思い。「僕、負けず嫌いなので――」。
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続きの内容は
・正木に危機感を与えた4人の「ライバルの実名」
・長期離脱中、彼が描いた「長打力アップの秘策」
・アナリストが証言、打球劇変「バレルゾーンの秘密」
柳町達や山本恵大…次々と口にした“ライバル”の名前
「リハビリ中、1軍の試合も見ていましたけど、本当は見たくはなかったんです。みんな活躍していましたし。でも勉強するためにも見ないといけないじゃないですか。ここまで頑張ってこられたのも、負けず嫌いなだけです。そこは割り切りながら、自分のためだと思ってやってきました」
春先こそ最下位に沈んでいたものの、1軍は徐々に巻き返し、若鷹が次々と台頭した。リハビリ中、正木が危機感を抱いたのは事実だ。「(柳町)達さん、(野村)勇さん、(笹川)吉康に、山ちゃん(山本恵大)も活躍していた。『やばいな』と思いましたし、このままじゃ勝てないな、と」。2024年シーズンは7本塁打を放ったが、ここからレギュラーを奪うには何が必要なのか。足元を見つめ、考えさせられる期間となった。
手術を受けた時点で、すでに具体的なプランを描いていた。テーマに掲げたのは、長打力アップ。「最初は今年中の復帰は無理だと思っていたので、来年に向けてパワーをつけようと思いました」。ウエートトレーニングに重点を置き、鍛錬を積む日々。「途中から『もしかしたら今シーズン中に間に合うかも?』となってきました。筋量も増えたので、そこはうまく取り組めたのかなと思います」。厚くなった胸板は、正木が積み上げてきた努力の証だ。
負傷離脱前も「大した成績は残せなかった」
並々ならぬ危機感は、心からの本音だ。2024年は80試合に出場し、レギュラーへの足掛かりをつかんだ。しかし、1度ポジションを手放すと誰かが埋める――。その現実を目の当たりにした。「投手はもちろんですけど、ホークスは野手のレベルも高いじゃないですか。その人たちに勝っていかないといけないので」。クールな表情の裏に、熱い思いを秘めているのも正木の魅力だ。
「危機感は常に持ちながらやっているつもりでしたけど、シーズン序盤で怪我をして1軍の試合を見ることが多くなった。『この人たちに勝たないと、このままじゃ終わる』と思ったり。序盤はずっと出ていましたけど、あのまま出ていても、そんなに大した成績は残せなかったんじゃないかと思いました。『じゃあ何か変えないとな』と思いました」
ポストシーズンを戦った10月、正木の変化は打球にも表れていた。松葉真平アナリストが語る。「長打になりやすい打球速度と角度があるんですけど、それを『バレルゾーン』と呼びます。もともと正木選手は打球角度が低かったんですけど、そこに入れるのが上手くなりましたね」。フリー打撃を見ていてもスタンドインの数が明らかに増えていた。年内は左肩のサポーターを外せない状況だが、リハビリ期間に確実な進化を遂げて帰ってきた。
「やるしかないと思っています」。2026年、迎える5年目のシーズン。飽くなき向上心を持つ正木智也なら、どんな壁だって越えていけるはずだ。
(竹村岳 / Gaku Takemura)