遊撃UZRワースト「-8.4」も…野村勇のデータが示す“真の能力” 顕著だった決断の代償

遊撃を守る野村勇【写真:古川剛伊】
遊撃を守る野村勇【写真:古川剛伊】

ゴールデン・グラブ賞では遊撃手部門で4位

 2025年シーズンを5年ぶりの日本一で終えたホークス。最終戦の試合を決めたのは、今季“再ブレーク”を果たした野村勇内野手の一発だった。ルーキーイヤーの2022年にわずか203打席で10本塁打を放つインパクトを残すも、その後2シーズンは故障などにより低迷。プロ入り2年目以降の道のりを考えれば、大躍進を遂げたシーズンとなった。今季はリーグ9位タイの12本塁打を放つなど、球界でも数少ない「打てる遊撃手」としての地位を確立しつつある。

 一方で、課題も残るシーズンだったことも確かだ。特に目立ったのは守備面である。今季の野村は遊撃を中心に三塁、二塁と複数ポジションを守るユーティリティぶりを発揮した。ファインプレーも目立つ一方で、他球団の遊撃手に比べると一般的な守備評価は低い。三井ゴールデン・グラブ賞の投票でも、パ・リーグの遊撃手部門で4位となる15票にとどまった。今宮健太内野手との差を感じる記者が多かったというところだろうか。

 そして、その評価はデータ分析の観点から見ても変わらない。同ポジションの平均的な選手が守備についた場合に比べ、チームの失点をどれだけ防いだかを測るUZR(Ultimate Zone Rating)で見ると、今季の遊撃手としての野村は576イニングを守り「-8.4」。平均的な遊撃手に比べ、チームの失点を8.4点増やしてしまったという評価になる。これは今季500イニング以上を守った遊撃手11名の中で最も悪い値だ。

 しかも、野村は576イニングと他の遊撃手に比べて少ない出場機会の中で、これだけの失点を増やしてしまっている。フルシーズン目安の1200イニング換算でみると「-17.4」。野村より1つ順位が上の水野達稀内野手(日本ハム)でも、1200イニングあたりで-6.2に収まっている。これを考えると、今季の遊撃手全体の中で野村の守備は一段落ちるという評価が妥当かもしれない。

 内野手のUZRは「併殺完成」「守備範囲」「失策抑止」の3項目で、それぞれどれだけ失点を防いだかの合計値だ。この内訳で見てみると、野村はいずれの項目でも平均以下の成績を記録。ただ、その中でも特に大きなマイナスを生んでいるのが「-6.1」を記録した守備範囲だ。併殺時のピボットやエラーの多さ以上に、シンプルに「広い範囲を守って多くの打球を処理する」という点で劣っていたようである。18盗塁を記録するなど機動力も武器の野村だが、今季は守備範囲が振るわなかった。

 このように、今季の野村が見せた守備のパフォーマンスは高くなかった。だが、これがそのままの実力かというと、実はそういうわけでもないかもしれないのだ。どういうことだろうか。

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続きの内容は

・遊撃ワースト指標に隠された野村の”真意”
・守備指標の急降下と急回復を繰り返した「知られざる要因」
・万全なら大ブレイク!データが示す野村勇の「WBCでの役割」

「ホークスの野村」から「世界の野村」となれる可能性も

 近年のデータ分析における進歩により、守備力は極めてコンディションの影響を受けやすいことがよく知られている。どれだけ名の売れた名手であったとしても、故障を抱えたまま出場していた場合はあっという間に守備指標は低下していく。そして、その傾向は今季の野村にもまさに当てはまっていた。

 野村は開幕直後に左膝の靭帯を損傷したが、そのままプレーを続けることを決断した。「今年がダメならクビになる」という並々ならぬ覚悟があったからだが、満身創痍の状態で日々戦っていたことは間違いない。

 守備指標の推移を見ても、野村がコンディションに苦しんだ様子はよく見えてくる。以下のグラフは野村の直近10試合ごとの守備貢献の推移を、シーズンを通して見たものである[1]。

 この推移を見ると、野村は序盤こそ平均レベルの守備貢献度を記録している。しかし、それが5月の後半から一気に崩れだす。グラフは大きく下降したまま6月いっぱいまで平均を下回り続け、7月に入ってようやく回復。7、8月は平均を上回る高い守備貢献度を記録し続けたが、シーズン終盤に再度落ち込んだといった推移だ。

 グラフの上下動が故障によるコンディションの波を反映しているのだとすれば、野村のポテンシャルはこの数値では測れないことを示唆している。今季はコンディションの悪化により、守備貢献度は振るわなかった。その中でこのパフォーマンスだったのだ。もし万全の状態であれば、攻撃だけでなく守備でも「違いを作れる選手」の可能性がある。

 来春にはWBCが行われるが、遊撃を誰が務めるかはまだ不透明な状態だ。今季の大活躍を見れば候補の中に野村が入るのは間違いないだろう。だが今回見てきたように、今季の大活躍はまだ野村勇というポテンシャルを十分に活かしきれていない結果であるかもしれない。もし万全のコンディションで来春に臨めるなら、もしかすると「ホークスの野村」から一気に「世界の野村」に飛躍することも十分ありえるように思える。

[1]ポジション内での比較を行うUZRでは、複数のポジションをまたいだ野村の守備貢献度を描写できない。そのため、UZRにポジションの補正を加えた値を採用している。仮に競争力の高い遊撃でマイナスのUZRを記録したとしても、二塁や三塁に比べると、そもそもレベルが高いポジションでの値といえる。そこで補正を加え、ポジションの競争力も加味した守備貢献度を出そうとしたものだ。

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する「1.02 Essence of Baseball」の運営、メールマガジン「1.02 Weekly Report」などを通じ野球界への提言を行っている。(https://1point02.jp/)も運営する。