構想外通告を受け…周東がくれた「心配の連絡」 同期の絆、高橋礼が喜んだ熱いハグ

周東佑京とハグする高橋礼【写真:中戸川知世】
周東佑京とハグする高橋礼【写真:中戸川知世】

打者3人に対して1安打…「声援が力になった」

 同期の絆は今も健在だ。キャリアの岐路に立たされた右腕に、盟友は「心配の連絡」をくれた。12日、マツダスタジアムで「エイブル トライアウト2025~挑め、その先へ~」が行われた。「ファンの方がたくさん来てくれて、声援が力になりました。腕を振って投げることもできましたし、自分らしいボールを出せたと思います」。清々しい表情でそう語ったのは、巨人の高橋礼投手だ。

 ホークス時代の2019年には12勝を挙げて新人王を獲得した。翌年も中継ぎとして52試合に登板するなど、1軍の戦力として貢献してきた。しかし、怪我に苦しんだこともあって徐々に登板数を減らし、2023年オフにトレードで巨人に移籍。今季は1軍登板なしに終わり、10月2日に戦力構想外の通告を受けた。

「NPBの舞台でやりたい気持ちが強い。老いていくような年齢でもないですし、まだまだ諦められないです」。30歳となった右腕は現役続行への強い思いを胸に抱き、広島までやってきた。貴重なアピールチャンスを前に、連絡をくれたのが同期入団の周東佑京内野手だった。やり取りは多くなくても、大切な仲間の言葉に背中を押された――。

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続きの内容は

・周東佑京が贈った「熱いハグ」に込められた、同期だけの深すぎる絆の真相
・ホークス6年間で得た「人生観」を激変させた、高橋礼の知られざる経験
・「雑草のように這い上がる」彼が背負う、アンダースローとしての「使命」とは

2024年5月30日に古巣・ホークスと対戦

「最近、連絡を取りました。『調子どうなん? 大丈夫なん?』みたいな心配の連絡はしてくれましたね」

 右腕は今季イースタン・リーグで33試合に登板し、73回2/3を投げた。まだまだ体は元気なこと、そして近況を伝え合った。ともに1995年世代の同学年。2017年ドラフトを経てホークスに入団すると、プロ2年目の2019年から互いに頭角を現した。支え合い、1軍の勝利に何度も貢献してきた盟友だ。

 巨人で過ごした2年間について「誰よりも練習したと思っていますし、そういう人生を歩むんだと思ってやってきた。成長できた時間だったと思います」と胸を張る。古巣・ホークスとの対戦が実現したのは、2024年5月30日(東京ドーム)。3回5失点で降板したものの、チームは1点差で白星を拾った。「すごく緊張しましたし、筑後で僕の後ろを守ってくれた選手が1軍の試合に出るようになっていた。東京ドームで投げられたことも含めて、嬉しかったですね」。

 移籍して、初めてホークスナインと顔を合わせた。登板前には三塁ベンチ前で元同僚たちと挨拶を交わした。中でも、周東とは熱いハグで再会を喜んだ。「佑京もこの2年間ですごく大人になったんだなって思いました。同じ球場で話ができたり、ああやってハグができたのは自分の人生においてもすごく大きな出来事でした」。離れ離れになっても当然、頑張っていることは知っている。あの時に見せた最高の笑顔。高橋礼にとって、それだけ嬉しい瞬間だった。

トライアウトに登板した高橋礼【写真:小林靖】
トライアウトに登板した高橋礼【写真:小林靖】

ホークスで過ごした6年間「今も感謝しています」

 福岡を離れて2年が経った。他球団も経験したことで、見えた景色がたくさんあったはず。あらためて、右腕にとってホークスでの6年間はどんな時間だったのか。

「一番上から一番下まで見ました。他の社会に出ても『怖いものはないな』って。ホークスにドラフトで指名してもらって、チャンスをいただいて。そういう経験をさせてもらったのは、本当に大きいなと。自分の人生においても、大きい出来事ばかりだったかなと思っているので、今も本当に感謝しています」

“絶滅危惧種”とも言われるアンダースロー。特徴的なフォームがプロの世界で通用するんだと、自分なりの「使命」を背負って腕を振ってきた。「下から投げるようになった時点で、上投げの人よりも努力が必要なので。ピッチャーとして優れているとも言えない。雑草のように、這い上がる気持ちで頑張らないといけない。その気持ちは何も変わっていないです」。戦力構想外の通告を受けて、自分に対して再確認したのは野球が好きだという気持ち。「まだまだ技術も向上できる。諦めたくないし、現役を続けたいです」と熱っぽく語った。

 この日のトライアウトでは打者3人に対して1安打。先頭の広島・松山に中前打を浴びたが、続くバッターを三ゴロ併殺に打ち取った。帰り際には30分にわたってファンサービスに応じた。サインを書き、一緒に写真を撮る。ここまで足を運んでくれたファンの方々との交流を、心から大切にしているように見えた。待っている人が、こんなにもいる。伝えたいメッセージは、力強かった。

「ホークスでは6年間お世話になりましたし、自分にとってすごく大きな時間でした。ジャイアンツでは2年間で、短いと思われるかもしれませんけど、僕にとってはすごく内容の濃い日々だったので。なんて言うんですかね……。『ジャイアンツ戦力外か』って思わずに、この8年間で僕は人間としてすごく成長ができたので。これからも、高橋礼という選手に希望というか、そういうものを見出してもらえたらなと思います」

 謙虚な姿勢は、ホークス時代と何も変わらない。必ずオファーが来ると信じて――。高橋礼の歩みは、まだ終わらない。

(竹村岳 / Gaku Takemura)