大越監督が振り返る4軍の1年…選手とスタッフの衝突
若鷹の成長を誰よりも願うからこそ、本気でぶつかった。聞こえてきたのは、スタッフの怒声。「手を抜くな!」――。ホークスに復帰した今シーズン、大越基4軍監督にとって挑戦続きの1年だった。「1軍にいこうとしている人は、やっぱりそのための練習をしていますよね。そういう選手は放っておいてもいいし、こちらに何かを思わせるだけの姿を見せています」。
プロ野球界で初めての試みとして2023年に新設された4軍。今季は16試合が行われた。2026年は「監督」というポジションをなくすことが決まるなど、球団としてもまだまだ“正解”を模索している段階だ。来季、3軍監督への就任が決まっている大越監督が明かしたのは、選手とスタッフが“衝突”した出来事だった。「2、3回くらいですかね」。思わず振り向いてしまうほど、大きな怒声が聞こえてきた。
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続きの内容は
裏方SCが語った「怒るという選択」の全貌
選手とSCの亀裂を防いだ監督の「秘策」
大越監督が危惧する若鷹の「物足りなさ」の正体
常勝軍団の礎築いた先人も…「怒ってくれる人は大切」
SCとは「ストレングス&コンディショニング」の略称で、ホークスでは1軍からリハビリ組まで計7人が配置されている。その名の通り、ウオーミングアップからトレーニングまで、選手のフィジカルを管理する役職。時には大きな声を出し、ナインの士気を上げることも大切な仕事だ。
SCと若手の“衝突”を目撃した大越監督は、自らのスタンスをこう明かした。「SCほど一生懸命な人はいないですよ! 選手のことも諭しますけど、SCが悪者になるような言い方は絶対にしないです」。両者の間に入ることで、“亀裂”が生まれないように配慮した。「次の日になったら、その2人が仲良さそうに廊下を歩いていたんですよ。それはお互いにプロである証なのかなと思いましたね」。
ダイエーで12年間、現役生活を送った大越監督。“常勝軍団”の伝統を築き上げてきたスタッフもたくさん知っている。「川村(隆史)さんみたいに本気で選手を思っている人もいた。どの世界にも言えることだと思いますけど、やっぱり怒ってくれる人は大切なんですよ」。高校野球での指導経験も豊富な大越監督の言葉だからこそ説得力がある。本気で向き合ってくれる人は、選手にとっても貴重な存在だ。
ホークスに入団して6年目…勝永SCが貫いた“哲学”
若鷹と「ぶつかった」と明かした人物は、勝永将史SCだった。牧原大成内野手と同じ1992年世代で、ホークスに入団して6年目。今季は4軍を担当し、選手たちと日々コミュニケーションを取ってきた。「確かその時は、全力を出すことに意味があるメニューだったんです。でも、僕には10割で取り組んでいるようには見えませんでした」。怒声を飛ばしたのは、裏方として貫いた“哲学”でもあった。
「決して感情的になったわけではありません。『怒るという選択をした』。そんな感じです。だから、その後に尾を引くようなことは絶対にしないし、自分なりに強いメッセージだったつもり。『本気で良くしたい、良くなりたい』と思っていれば、お互いにプロでなければいけないので。感情的な部分はあまり関係ないと思います」
中京大時代に出会った恩師が、自分の道標になった。「アメリカでトレーナー経験がある方と、大学のころに関わらせてもらったんです。教わったのは、選手のことを本気で思うこと。口で言うのは簡単なんですけど、僕も少しずつキャリアを積んできて、それを実戦している人って少ないんだなと感じます」。若鷹に厳しい言葉をかけたのは、かつて自分自身に誓った“約束”を守り続けているから。「手を抜くな」というのは、心から飛び出た本音だった。
大卒の育成ルーキー・漁府に見た強い危機感
今オフ、ホークスは選手20人に来季の戦力構想外であることを通告した。大越監督にとって衝撃だったのは、2年目の村田賢一投手が育成での再契約を打診されたことだった。「大卒の子は目の色を変えています。(ルーキーの)漁府(輝羽)とは『来年3軍やと(打率)4割、40本塁打くらい打たなあかんと思っているやろ』っていう会話はしましたね」。漁府は東北福祉大から2024年育成ドラフト10位で入団した右打ちのスラッガー候補生。非公式戦ではチームトップの105試合に出場し、6本塁打をマーク。一方で打率.156、127三振と確実性に課題を残した。危機感を突きつけられて、取り組みにも明確な変化が生まれている。
「そういう意味では、高卒の選手は『まだまだ野球ができる』という感覚を持っているように見える」。そう指摘した大越監督。誰よりもハングリーであるべき若鷹に、物足りなさを感じたのも事実だ。球界初の試みである4軍の誕生から3年。「目指せ世界一」を標榜するホークスの挑戦は、まだまだ続く。
(竹村岳 / Gaku Takemura)