“うわべ”のサイン交換…ミットを「構えていただけ」 渡邉陸が忘れぬ敗戦、後悔の1球

渡邉陸【写真:竹村岳】
渡邉陸【写真:竹村岳】

4月17日の楽天戦…オスナとのバッテリーで痛恨の逆転負け

 1軍の試合における勝敗の重み――。プロ7年目の2025年、多くの経験を積んだ渡邉陸捕手には、忘れられない“後悔の1球”がある。「ひどい負けでしたよね……」。反省の言葉と共に、静かに振り返った。

 今季、自身初となる開幕1軍入りを果たした渡邉。24試合に出場して打率.222、5打点。12試合でスタメンマスクを被るなど、着実にステップアップしたシーズンだった。しかし、6月20日に登録抹消されると、再び1軍の舞台に戻ることはなかった。

「あの時はただ必死にやっていただけでしたからね」。プロ初本塁打を記録した2022年とは違った1年間。渡邉が口にしたのは、4月17日の楽天戦(みずほPayPayドーム)、ロベルト・オスナ投手とのバッテリーで3失点を喫した苦い記憶だ。投手と“うわべ”でしか交わせなかったサインのやり取りに、今も後悔が募る――。

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続きの内容は

渡邉陸が明かすオスナとのバッテリーで起きた「会話」
「ひどい負けでしたよね」今も胸に残る反省
渡邉陸が語る来季への「強い決意と課題」

「ひどい負けでしたよね」今も胸に残る反省

「ひどい負けでしたよね、やられ方もよくないですし……。自分としても、自信を持ってサインを出したわけではなかった。『よし、これでいこう』とどうしても思えなかったんです。ただミットを構えていただけでした」

 当時のチームは6勝8敗1分けと、まだ波に乗り切れていない春先だった。この試合、6回に中村晃外野手が先制の1号3ランを放ち、3-1と2点リードで最終回を迎える。スタメンマスクの渡邉は、オスナとバッテリーを組んだ。しかし、無死二塁のピンチを招くと、村林に同点2ランを被弾。さらに浅村の適時三塁打で勝ち越しを許し、痛恨の逆転負けを喫した。敗戦の重みを知るには、十分すぎるほどの経験だった。

 渡邉は2023年から2年間1軍での出場がなかった。オスナがホークスに加入したのは2023年だったため、2人のバッテリー経験は浅かった。春季キャンプから意思疎通を図ってきたとはいえ、レギュラーシーズンで迎えた窮地で、それは脆さとなって表れた。根拠を持ってサインを出すこと、そのための徹底した準備の大切さを思い知らされた。

 村林に打たれたのは、高めに抜けたカットボール。試合後、2人は言葉を交わした。「なぜあの結果になったのか、僕なりの意見も伝えました。オスナも『あそこに投げたから打たれた』と話していました」。

4月17日の楽天戦で逆転を許しベンチへと戻るロベルト・オスナ【写真:荒川祐史】
4月17日の楽天戦で逆転を許しベンチへと戻るロベルト・オスナ【写真:荒川祐史】

秋季練習の課題は「ブロッキングとスローイング」

 あの痛恨の敗戦を胸に刻んでから、渡邉の言動は確実に変わった。先発マスクを任される試合では、前田純投手や松本晴投手といった年齢の近い投手と組むことが多かったが、時には首を振られても「俺を信じろ」と、強い意志でサインを押し通すこともあった。オスナとの一球から学んだ教訓を、実戦で生かそうと準備を重ねてきた。

「僕たちはサインで“会話”をしないといけない。理解しているつもりでしたけど、構えているだけじゃダメだと思いました。自分の意思を明確にピッチャーに伝えていかないと」

 その成長の証は、すでに見え始めている。9月末の2軍戦で右肩痛から復帰したオスナとバッテリーを組んだ。1点差の緊迫したゲームを制した後、演じた試合後、オスナは「いい配球だった」と話したという。

 来季8年目を迎える25歳は自らに言い聞かせるように語る。「(6月18日の)広島戦でもありましたけど、一発で負けてしまう試合が多かった。そういう経験はこれから生かしていかないといけない」。そう語る表情は、悔しさを乗り越えた分だけ、確かにたくましくなっていた。

(竹村岳 / Gaku Takemura)