柳町達と野村勇…2025年チャンスを掴んだ若鷹コンビ
100人以上もの選手を抱える大所帯。絶対的なレギュラーが存在するホークスにおいて、どうやってチャンスを掴めばいいのか――。ひたすら貫いた“プロの姿”と、自らの持ち味に気付いた明確なきっかけ。分厚い選手層を突き抜けた2人の言葉には、説得力があった。
ここ数年、ホークスにおいて世代交代の必要性は強く叫ばれてきた。レギュラーの存在は、若鷹にとってはもちろん高い壁。日本一に輝いた2025年、自らの力でポジションを掴んだのが柳町達外野手と野村勇内野手だった。6年目の柳町は、出塁率.384で初タイトルを獲得。4年目の野村は12本塁打、18盗塁と持ち前の打力を発揮すると、遊撃だけでなく二塁、三塁もそつなくこなす守備力は、まさに欠かせない戦力だった。
そんな柳町でさえ、今季も開幕1軍には入れなかった。柳田悠岐外野手と近藤健介外野手が“双璧”として君臨する外野陣。一体、どんな準備を重ねてチャンスを待ち続けていたのか。
フォーカスしたのは自分の技術「やり切ることが一番」
「何を準備するかと言われたら難しいですけど、どこでチャンスが来るのかわからないじゃないですか。自分を高めることしかできないですし、それこそがプロだと思います。そこの探究心がなくなってしまったら、終わりなのかなと」
昨年までの5年間、出番を待つことも多かった。柳町がフォーカスしたのは、とにかく技術を上げておくこと。「試合に出る、出ないは僕が決めることじゃない。結局は自分を高めることが準備だと思うし、それができていればチャンスが来た時におのずと一番のパフォーマンスが出ると思います」。やるべきことをやる、それがプロ――。実に柳町らしい価値観だった。
チャンスを待つ時間の中で、感情に左右されることはなかったのか。「口で言うのは簡単ですけど。やっぱり感情とか、やる気なんて絶対に人間にとっても付き物ですから。その中でもやり切ること。それが一番、みんなができそうで、できていないことなのかなと思います」。雑念は捨てて、コントロールできることに集中する。だから柳町は、得点圏でも勝負強さを発揮できる。これまでのスタイルが間違っていなかったことを、自分自身のバットで証明してみせた。
初の打撃タイトルを獲得し、日本一に貢献した。「その時その時に必死だったので、わからないですけど」としたうえで、過去の歩みについてこう振り返る。「去年よりも今年の方が上手くいっているな、とか。入団した時と比べて今の方がいいのは間違いないと思いますし。ちょっとずつの進歩っていうのは振り返ってみてわかるのかなという感じですね」。いつ報われるのか、柳町にもわからなかった。1つだけ言えるのは、絶対に諦めなかったということだ。
野村勇が見つめ直した持ち味…繰り返した徹底的な準備
野村が秘めるポテンシャルは小久保裕紀監督が「オリンピック選手級」と評価するほど。飛躍のきっかけとなったのは、自らの持ち味を見つめ直したことだ。
「自分の中でも、走塁から流れに乗っていくことが多いなって気付いたんですよね。1年目も良い走塁をして、好循環になっていた。『足が大事やな』って思い始めた。去年、一昨年とかは正直、『代走キャラって……』と思って、全然本気じゃなかったんですよ。やっぱりスタメンで出たいですし。でも今年は、与えられたところをまずしっかり準備していくことやなと思って取り組んできました」
開幕1軍入りして、初スタメンは5月1日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)だった。1か月は守備・走塁要員として出番を待った。「与えられたところで準備するっていうのは去年まではできていなかった。打ちたいなって思うし、代走の時も思うことはあったんですけど。そういうところを変えたのも1つの要因なのかなと思います」。今の自分にできることは何か――。チャンスを広げるためにも、目の前のワンプレーに全力を尽くすようになった。
伴元裕メンタルパフォーマンスコーチの力も借りながら、姿勢そのものも変えた。今季はキャリアハイの18盗塁を記録。足からリズムを作り、何度もチームを救った。「代走の時はしっかりピッチャーの映像とクイックを見て、そこだけに全集中していました。ちゃんと準備していれば1球目からいいスタートを切れるし、やっぱり自分は走塁からやなって思いましたね」。前向きになれなかったかつての自分は、もうどこにもいない。
お互いの活躍は、どう見えていたのか。柳町が「勇さんもじゃないですか。やることをやっていますし、やらないといけないことを理解しているのが一番すごいなと思います」と言えば、野村も「どんな境遇でもやるべきことを続けているから、チャンスが来た時に結果を出せる。達は流されたりしないですし『打てなかったから』っていうのもない。そういうところがすごいです」。ようやく掴んだ自分だけのポジション。来シーズン以降、簡単には譲らない。
(竹村岳 / Gaku Takemura)