日本シリーズでも目立った投手力
阪神を4勝1敗で下し、5年ぶりの日本一を勝ち取ったホークス。全試合でスタメンマスクを被った海野隆司捕手も「嬉しいです」と胸を撫で下ろした。投手陣は全5試合で計8失点。1点差ゲームが4試合と、接戦を制する展開の連続だった。佐藤輝明内野手を筆頭に近本光司外野手、森下翔太外野手ら好打者が揃う阪神打線に対して、ホークスサイドはどんな準備をしていたのか。強力打線にも明確に「通用する」と感じた瞬間があった。
5試合で先発マウンドに上がったのは4人。その中で右腕は有原航平投手、上沢直之投手、大津亮介投手だった。いずれの登板も2失点以下としっかり試合を作り、役目を果たしてリリーフ陣にバトンを渡していた。29日の第4戦では、大津が日本シリーズ初先発。5回無失点と期待以上の結果で応えてみせた。背番号26が登板する前から「いけるんじゃないですかね」と予言していた人物がいた。“ある球種”が有効であると確信を得ていたからだ。
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続きの内容は
吾郷チーフアナリストが語る、セ・パ打線の「決定的な違い」とは
海野捕手が確信した、ある球種が「有効」だった理由
鷹ナインが導き出した、データにない「攻略法」の全貌
吾郷チーフアナリストが語った阪神打線への対策
それが吾郷信之チーフアナリストだった。データをもとに傾向を分析し、対策を練るスコアラーたち。数字を並べて選手たちの背中を押すのが大きな仕事だ。第3戦目まで阪神の傾向を踏まえたうえで、有効だと確信していたのは右投手のチェンジアップ。セ・リーグとパ・リーグの大きな「違い」が、ホークスにとっては有利に働いたという。
「これは嶺井(博希)とも話をしたんですけど、パ・リーグはゾーンに投げますけど、セ・リーグは四隅に散らしていくじゃないですか。だからチェンジアップを腕に振ってゾーンに投げてくるっていう攻め自体が、あんまり向こうではないと思うんですよね。どんどん大胆に投げてくるっていう感覚がおそらくないから、タイミングが合っていなかったのかなと。推測ではありますけどね」
戦いの舞台を甲子園に移した際、小久保裕紀監督も「DHもないし、違う野球ですよね」と表現していた。DHの有無だけではなく、セ・リーグとパ・リーグは“別物”と言っていい。DeNAで9年間プレーした嶺井も、その違いには共感を示していた。
1戦目の有原も6回に2点を奪われて逆転を許したが、5回までは完璧に近い投球内容を見せていた。吾郷アナリストは「有原のチェンジアップは、どちらかといえばフォークの延長線上のような空振りも取れる球。佐藤輝選手に3ボールから打たれましたけど、タイミングやアプローチを見た時に、僕は初戦から絶対使えるなと思いました」。14勝を挙げ最多勝に輝いた背番号17が武器とするボール。試合には敗れはしたものの、攻め方に関する明確な方向性が生まれた瞬間だった。
海野隆司は2戦目から確信「有効だなと」
2戦目に登板した上沢は6回1失点。100球のうち、チェンジアップは8球だった。リードした海野も「上沢さんのところから有効だと思いましたね。有原さんとはまたちょっと変化が違うし、上沢さんはチェンジアップの割合が少ないんですけど。使えるなというふうに感じていました」と振り返る。吾郷アナリストが語る両リーグの違いも踏まえて「それもありましたね。ゾーンで勝負できたので」と胸を張った。
大津が先発する当日。登板前のミーティングでも、海野ははっきりとした口調で背中を押した。「チェンジアップはゾーンに投げていい。むしろゾーンで勝負していこう」。5回無失点と最高の結果で応えた右腕も「情報は事前にもらっていたのでわかっていましたし、すごく有効的でした」と語る。フォーシームと同じ回転でタイミングを外す“真っチェ”、そして通常のチェンジアップの2球種を使い分けて阪神打線を翻弄した。
「有原さんは逃げていく軌道で、上沢さんは“真っチェ”。両方、非常に使える球だと思っていました。自分も、どの選手にどっちのチェンジアップを投げればいいのか、だいたい把握していたので。バットに当てさせたい時と空振りを狙う時は自分の中でも分けていました。1戦目、2戦目、3戦目に投げてくれた投手のおかげで、投げやすかった部分もあったと思います」
グラウンドで戦っている選手だけでなく、セ・リーグでのプレー経験のある嶺井、そしてスタッフも一丸となって攻略法を生み出した。激闘だったポストシーズンを制したナインの表情は、自信に満ち溢れていた。
(竹村岳 / Gaku Takemura)