誇らしげな表情で…牧原大成が胸を張ったプレー 周東佑京と“無言”で交わした意思疎通

牧原大成【写真:栗木一考】
牧原大成【写真:栗木一考】

松本裕樹を救った好判断…一瞬で見えた景色

 完全アウェーの敵地でも、変わらない姿が頼もしい。1点差で競り勝った一戦。守備からリズムを作り出したのは、牧原大成内野手と周東佑京内野手だ。大歓声の中で2人が交わした“アイコンタクト”。一瞬の意思疎通で、掴み取ったアウトがあった。

 29日に行われた阪神との日本シリーズ第4戦(甲子園)。序盤からリードを広げたホークスだが、最大のピンチは8回に訪れた。4番手の松本裕樹投手が2安打と四球で1点を返され、なお1死一、三塁。一発が出れば逆転という場面で、打席には5番の大山を迎えていた。

 その初球、詰まらせた打球はふらふらと一、二塁間に転がった。全速力で追いついた牧原大は、そのままクルッと回転。迷うことなく二塁に送球し、得点圏に走者を進めなかった。松本裕を救うビッグプレー。牧原大にはどんな“景色”が見えていたのか――。

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続きの内容は

・牧原が語る、あの判断の裏側
・甲子園の異様な雰囲気での連携
・首位打者獲得後の意外な苦悩

敵地・甲子園で小久保監督が挙げていた懸念点

「(一走の佐藤)輝が止まっているのが見えたので、それで二塁に投げた感じですけど。自分としては冷静に判断できたと思いますね」

 打球に対して全力でチャージをかける一方で、ランナーのスタートまでしっかりと視界に捉えていた。「慌ててどうこうとかも、全然なかったです」。28日から戦いの舞台を甲子園に移したが、チームは2試合で5失策。チームメートの守備の乱れが目立つ中でも、堅実なプレーを続けている。「ミスは別にしますし、最終的にチームが勝てばいい。ミスしたら何かで取り返そうっていう気持ちは、みんな持っていると思うので。それが勝ちに繋がってるんじゃないですかね」。ナインの思いを代弁した。

 異様な雰囲気が包み込む敵地・甲子園。耳をつんざくような大声援が、タイガースの背中を押している。小久保裕紀監督も具体的な懸念点を挙げていた。「声が届かないと思う。内野と外野、外野と外野。ジェスチャーでいけるところはあると思うけど、最後の最後の一声ですよね。そこが大事になってくる。普段の声では届かないと思います」。いつも以上に“声以外”の連携が試されるのは確かだった。

 そんな中で、指揮官が求める姿を体現したのは7回無死。坂本が放った飛球は、二遊間とセンターの中間付近に上がった。二塁手の牧原大も追いかけたが、最終的には中堅手の周東が捕球した。はたから見ると何気なく奪った1つのアウトだが、2人はともに自分が捕るつもりで打球を追いながら、“無言”のコミュニケーションを交わしていた。背番号8が誇らしげな表情で振り返る。全てを計算に入れたワンプレーだった。

「あれはちょうど真ん中で、自分もいけるし、佑京もいける距離感だったので。風の流れ的にも、センター方向に流れていた。あそこは一瞬、パッと目が合ったので。もう『佑京に任したぞ』って」

CS後には思わず「首位打者を獲らなきゃよかった」

 日本ハムとのCSファイナルステージでは打率.118にとどまった。レギュラーシーズンでは首位打者を獲得したが「こんなこと言っちゃいけないですけど、首位打者を獲らなきゃよかったと思いました。足かせになっていましたし、自分で勝手にプレッシャーをかけていました」。タイトルホルダーだけが経験する苦悩を吐露していた。日本シリーズでグラウンドを駆ける牧原大の表情は、明らかに落ち着いて見える。年に1度の頂上決戦を心から味わっていた。

「ここまできたら、勝っても負けても楽しんでやるだけですよ。そう思ってプレーしていますね。1位同士のぶつかり合いなので。別にここで気負ったところでいいことないもないですし。勝っても負けても、最後まで楽しみたいなと思います」

 CSを終えた時には「シンプルに迷いというか、焦りがあった。自分の信じてきたことを最後までやるのは大事だなと思いましたし、次は楽しみながらやりたいです」と語っていた。重圧にのまれ、自分を見失う姿はもうどこにもない。あと1勝。ホークスが日本一になるためには、牧原大成の力が必要だ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)