2軍ではタイトルを獲得も…右腕が自覚していたこと
強烈な感情を胸に抱いたのは、1年前のことだった。「このままだったら、死ぬほど苦しいだろうな……」。2025年シーズンも含めて、2年連続で1軍登板なし。偽りのない胸中を明かしていた。
ソフトバンクは27日、板東湧梧投手に対して来季の契約を結ばない旨を通達したと発表した。
1軍はパ・リーグ連覇を成し遂げたが、最後まで声はかからなかった。ウエスタン・リーグでは21試合に登板して9勝2敗、防御率2.48。最優秀防御率、最高勝率のタイトルを手にするなど結果は残したが、1軍の舞台で勝負できるだけの内容ではないことは、右腕が一番理解していた。「『これでは上がれないだろうな』っていう試合がやっぱり多いです」。最後の1軍登板は2023年9月30日だった。
思い悩んできたのは、出力面だ。かつて150キロ台を誇った直球は140キロ前半にとどまり、甘く入れば痛打された。あらゆる面からきっかけを探し、新しい自分を作ろうとしてきた。そして2024年の戦いが終わったオフ、ある感情が胸に湧いてきた。板東が口にした言葉には、抱き続けた苦悩が表れていた。
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続きの内容は
契約更改で板東が抱いた「不安」とは
新投球スタイル模索の「苦悩」と「光明」
ファンへ誓った「諦めない」真の理由
ギャップに吐露した思い「何が正解なのか…」
「去年のシーズンが終わった時に、『来年もこのままやったら死ぬほど苦しいだろうな』って思ったのをすごく覚えてるんですよ。そうならないように頑張っているところなんですけどね」
2024年は入団後2度目となる1軍登板なしに終わった。戦力外通告の可能性について「僕も他人事じゃない」と向き合っていた右腕。12月12日に契約更改を迎え、2025年もホークスでプレーすることが決まる。契約を提示してくれた球団に感謝しつつも、サインをするには強い勇気が必要だった。もしかしたら、この苦しみが“もう1年”続くかもしれない――。来季に対する期待を抱く一方で、胸の中に不安があったのも事実だった。
今シーズン中も、スタイルチェンジを試みた。カットボールやツーシームで球を動かし、打たせて取る投球に光明を探した。「それを追求した時期もあったんですけど、なんせ思うように投げられていないので。そこにすら至っていないと自分では思ってしまう。球が弱ければ痛打もされるし、(1軍昇格のための)土俵に立つにはまだダメだなって」。首脳陣から評価されなければ、1軍への切符は掴めない。理想と現実のギャップは大きく「何が正解なのか……。やっぱり難しいですよ」と吐露した。
筑後で何度も目にした最後まで残って練習する姿
どれだけ辛い状況でも、右腕を突き動かしてきたのは“諦めの悪さ”だ。タマスタ筑後の室内練習場。誰よりも遅く残って、練習する板東の姿を何度も目にした。「投げることが嫌いになりそうな時はたくさんありましたし、今でもあります。でも、僕はプロとしてお金をもらっているので」。自分が持てる全てを野球に費やしてきたのだから、後悔は一切ない。苦しめられたのも、救ってくれたのも、愚直な性格がゆえだ。
「葛藤もいろいろあるんですけど、諦めきれないからこそ、こうなっているのかなと。自分はこういう性格だから割り切れないし、やりたいこともたくさんある。それが悪いところなのかもしれないし、結果が出ていれば正解になるんですけど。苦しいことも多い中で、いいように捉えれば、こういう状況で諦めないっていうのは人生においてすごく大事なことなのかなとも思います」
ドラフトの同期入団で、今もホークスでプレーしているのは杉山一樹投手と渡邉陸捕手だけ。仲間がチームを去っていく姿を何度も目にした。「他人目線といえばおかしいですけど、諦めるって失礼じゃないですか。やりたくてもできない人がいる世界。調子が悪いからと言って何もしない人を、僕なら応援しようと思わないです」。支えられた7年間。野球への情熱が消えなかったのは、どんな時でも声援を送ってくれたファンがいたからだ。
「僕がやめてしまったら、何よりファンの人たちに失礼なので。応援してくれている人がいる。それはしっかりと感じていますし、頑張ろうと思えていなかったら、もっと早く練習も終わっています。僕が諦めないことで、誰かの力になれているんですかね」。照れながら、ようやく笑った。最後まで絶対に諦めない板東湧梧は、本当にカッコよかった。
(竹村岳 / Gaku Takemura)