なぜ庄子が9回の守備に? 首脳陣が考えたシナリオ…抜擢の裏にあった「2つの狙い」

庄子雄大【写真:古川剛伊】
庄子雄大【写真:古川剛伊】

代走起用から1点ビハインドで迎えた9回の守備へ

 日本シリーズのデビューは、1点を争う緊迫した展開で訪れた。25日の阪神戦(みずほPayPayドーム)、1点ビハインドで迎えた8回に近藤健介外野手の二塁打と代打・山川穂高内野手の四球で2死一、二塁のチャンスを作る。ここで一塁走者・山川の代走として、ルーキーの庄子雄大内野手が告げられた。

 自らが生還すれば逆転というしびれる場面での起用。結果的に得点には至らず、チームは1-2で敗れたが、その後の采配からは庄子への信頼が感じられた。「6番・遊撃」でスタメン出場した川瀬晃内野手に代打・山川を起用。ベンチで控えていた今宮健太内野手が9回の守備に就くのが順当な流れかと思われた。

 しかし9回、遊撃の守備位置には庄子の姿があった。なぜ首脳陣は日本シリーズという大舞台の最終盤でルーキーに守備を託したのか。そこには、試合の勝利をたぐり寄せるための戦略と、庄子自身がつかみ取った“信頼”があった。

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続きの内容は

首脳陣が今宮温存で描いた「逆転のシナリオ」とは
庄子の守備力向上を導いた「練習の裏側」
CS経験がもたらした「大舞台での冷静さ」

 奈良原浩ヘッドコーチは、その意図を「(今宮)健太をまだ代打で使いたかったから」と明かす。勝負強い打撃を誇る今宮を、最後まで攻撃の切り札として残しておく。8回の攻撃は野村勇内野手の左飛でチェンジになったが、嶺井博希捕手に打順が回っていれば今宮が代打に起用されていた可能性があったのだろう。しかし、チャンスが潰えたことで今宮の起用を9回の攻撃に残したい。これが、ビハインドの状況で逆転を狙う首脳陣が描いたシナリオだった。

成長したルーキーへの信頼

 この戦略は庄子の守備力なくしては成り立たない。今宮を温存するという選択を可能にした背景には、「庄子になら任せられる」という首脳陣の信頼の表れがあった。

「リーグ優勝が決まった後に庄子を起用したけど、それを見た時に動きも良かったから。当初は足でというところがあったけど、守備能力がかなり向上してきている。ああいう場面でも代走から守備にも行かせることができるようになっている」と、奈良原コーチは語る。

 シーズン終盤で見た動きの良さ、そして日々の練習で培われてきた技術が、大一番でルーキーに守備を託す決断につながった。庄子自身も「優勝が決まった後の試合でいいプレーができたのが、また自信につながった」と語るように、一つ一つの経験を大切にしてきた。

大舞台で生きたCSでの経験

「CSの初戦の方が、状況的にも自分がホームを踏めばサヨナラという場面だったので、その時の方が落ち着きがなかったというか。きょうは本当に落ち着いてプレーできました」

 CSファイナルステージ初戦、延長10回に代走でサヨナラのホームを踏んだ経験は、庄子にとって何物にも代えがたい財産となっていた。「人生で一番緊張した」と振り返った場面を乗り越えたからこそ、日本シリーズの大舞台でも冷静でいられた。

「逆転していればどうかなっていうのはありましたけど、ビハインドのままだったら、そのまま守備に就くかなとは思っていました。あの状況で代走で出たからには、そのまま守備にも就きたいという気持ちはあるので。常にその準備をしています」

CSに代走で出場した庄子【写真:加治屋友輝】
CSに代走で出場した庄子【写真:加治屋友輝】

12球団のルーキーで最初の日本シリーズ出場

「日本シリーズのグラウンドに立てることはすごく自信にもつながります。ファンの方々が想像している自分の姿にはまだまだたどり着けていないと思うけど、まずは日本シリーズで自分の出来ることをしっかりやることを最優先にします」

 シリーズ初戦は黒星を喫したが、首脳陣がシーズン中には見せなかった采配があった。それはルーキー・庄子雄大の成長を感じさせる戦略だった。12球団のルーキーで一番乗りとなった日本シリーズ出場。背番号25は、その経験を糧にさらなる飛躍を目指す。まだまだシリーズは始まったばかり。頂点に立った先で庄子がどれほど成長するのか、楽しみだ。

(飯田航平 / Kohei Iida)