佐々木麟太郎指名の“キーマン″が語る舞台裏 6度渡米で徹底調査…「12球団で一番」

佐々木麟太郎【写真:ロイター】
佐々木麟太郎【写真:ロイター】

ドラフト会場をどよめかせたホークスとDeNAの佐々木麟太郎入札

 驚きの指名に会場がどよめいた。10月23日、都内のホテルで行われた「プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」で、ホークスが1位指名したのはスタンフォード大学に在学するスラッガー、佐々木麟太郎内野手だった。

 創価大の立石正広内野手や健大高崎の石垣元気投手らが注目株として挙がっていた今回のドラフト。まず、佐々木に入札したのは指名順9番目のDeNAだった。「佐々木麟太郎」の名前が読み上げられると会場は騒然。さらに12球団最後の指名となったホークスも入札し、再びざわめきが広がった。予想だにしない2球団の競合となった。

「抽選になるとは思っていなかったんですけどね」。ドラフト会議後、こう明かしたのは永井智浩球団統括本部編成育成本部長だ。

 スタンフォード大に通う佐々木は今年のドラフト指名が解禁されたものの、ルール上、在学中の場合は交渉や契約が可能になるのは来年5月のリーグ戦終了後。契約期限は7月末までとなる。来春キャンプどころか、来シーズンの開幕時点でも入団する可能性はほぼ皆無だ。さらに、例年7月にはMLBのドラフトが行われ、そこで佐々木がMLB球団から指名されれば、そちらを選ぶ可能性もある。

 来年5月まで交渉、契約ができず、それどころか入団するかどうかもわからない佐々木に対して、リスク覚悟で1位指名に踏み切る球団は他にないのではないか。あわよくば“一本釣り”ができるかもしれない――。そんな思惑が球団内にはあった。

 結果的には競合となり、城島健司CBOが“残りクジ”で交渉権確定を引き当てた。初めてドラフト会議に参加し、抽選役を務めた城島CBOは大好きな麻雀に例え「残り物に福がありましたね。麻雀屋の息子でたくさんの牌をツモってきましたので、本当に今日はいい当たり牌が最後に残っていました」。そう語る表情には、佐々木という“運命の人”を引き当てた喜びが溢れていた。

 では、そもそもなぜ入団の保証すらない佐々木の指名に踏み切ったのか。永井本部長はその意図を明かした。「次世代の戦力という意味では、今ウチの若い選手はバランスよく育って、若手が待機している状態。そんな中で核になってくれる選手というところを将来的に考えた時に、彼じゃないかなと」。2年連続のリーグ優勝を果たし、充実の戦力層を誇るからこそ、例えば柳田悠岐外野手のようにチームの大黒柱となるようなスラッガーを戦力に加えたかった。その視点で今年のドラフト候補を見渡したとき、それに相応しいと評価したのが佐々木だった。

 実はこの“強行指名”の裏には、米球界に精通する1人のキーマンの存在があった。「鷹フル」はドラフト会議直後、その人物の単独取材を行った。

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続きの内容は

佐々木指名に尽力。米球界にも精通するキーマンとは
デビュー前から徹底マーク。驚きの「米国視察の回数」
入団拒否のリスクも覚悟。球団が下した「最大級の評価」

 そのキーマンとは、球団が発表した指名選手プロフィールに「担当スカウト」として記載された人物だ。実際にはスカウトではなく、球団統括本部編成育成本部副本部長を務める嘉数駿氏だ。

 嘉数氏はハーバード大学を卒業したのち、2006年からロッテ、2009年からジャイアンツで働いた。2012年にはDeNAでGM補佐、2015年からはレッドソックスのアジア担当スカウトを務めた。2019年にホークスに入団すると、球団統括本部長補佐やGM補佐を歴任。今年1月に現職に就いた。

 ジャイアンツ、レッドソックスで働いた経験から米球界に関係や造詣が深く、今回の佐々木の調査においても中心人物の1人だった。その嘉数氏に指名に至るまでの準備や経緯、意図を聞いた。

 実はホークスは佐々木を徹底的にマークしていた。2024年9月に佐々木がスタンフォード大に進学してから、複数回にわたって編成スタッフが渡米し、そのプレーをチェック。嘉数氏は「アメリカには僕も含めて何人かが交代交代で、ホークスとして全部で6回行きました」と明かす。

 初めて視察のために編成スタッフが渡米したのは昨年10月。今年2月の公式戦デビューよりも4か月ほど前からホークスはその動向に注目していた。その後も度々、スタッフがアメリカに渡って情報収集を繰り返し、公式戦デビュー以降もプレーに目を光らせた。永井本部長も「調査に関しては本当に12球団で一番した自負がある」と語るほど、調査を重ねていった。

 視察と情報収集を繰り返す中で、佐々木の評価が固まってきた。「まずは本当に打撃がトップクラスだということ。そして、とにかくひたむきにやる。守備も走塁も、試合も練習も本当に一生懸命やるので。そこをすごく評価しています。あとは人間性。野球のところだけじゃないところも素晴らしい」と嘉数氏。高校通算140本塁打を放った打力はもちろん、人間性も申し分なし。入団してくれれば、長期間に渡ってホークスの核になってくれる選手として最大級の評価をした。

 当然、佐々木がホークス入団を選んでくれるかは分からない。実際に交渉が行えるようになるのは来年5月以降となる見込みで、交渉が不調に終わったり、MLBドラフトで指名されたりする可能性もある。それでも1位指名に踏み切った。

「そこ(来てくれるかどうか)は本当にこれからなので。ただ、来てくれない可能性を考えたとしても、評価は1位。それくらいの価値があるという感じでした」と嘉数氏。入団に至らず、仮にドラフト1位が“無駄”になったとしても、リスク承知で指名するだけの価値がある選手だと球団として判断した。

 天性の長距離砲であり、城島CBOが「彼が打席に立つとワクワクするような、彼の打席まで見て帰ろうっていうような選手になってくれると思います。何よりウチには王会長という世界のホームランアーチストがいるわけです。彼にはぜひ868本、王会長が見てない景色も見てほしいなと思います」との期待を口にするほど。ドラフト1位が入団に至らないリスクも承知で指名に踏み切ったホークスの大きな“愛”は実るのだろうか。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)