レイエスを封じた直球勝負の舞台裏 「海野の成長を感じた配球」…逆手に取った打者心理

20日の日本ハム戦、9回を締めて抱き合う海野隆司と杉山一樹【写真:加治屋友輝】
20日の日本ハム戦、9回を締めて抱き合う海野隆司と杉山一樹【写真:加治屋友輝】

9回無死にレイエスと対戦…156キロで見逃し三振

 何度も修羅場を乗り越えてきた守護神は、迷いなく渾身の1球を投げ込んだ。1点リードの9回に迎えた“最後の山場”。海野隆司捕手はまた「腹を括っていた」――。指揮官も大絶賛したフランミル・レイエス外野手に対する配球。その裏側に迫った。

 激闘となった日本ハムとのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ。アドバンテージを含めて3勝3敗までもつれ込み、決着は20日の最終戦に委ねられた。1点をリードして迎えた9回、マウンドに上がったのは守護神の杉山一樹投手。先頭打者は今シリーズで4本塁打を放っていたレイエスだった。2ボール2ストライクからの5球目、選んだのは代名詞のフォークではなく真っすぐだった。156キロで見逃し三振。相手の主砲を完璧に封じて、勝利を手繰り寄せた。

 敗れれば今季の戦いが終わるという一戦で、日本ハム打線を1点に抑えた海野の組み立てを小久保裕紀監督は大絶賛した。「(リバン・)モイネロのいいところを引き出しながら、松本(裕樹)、杉山と。最後のレイエスと郡司に対する攻め。本当に海野の成長を感じた、いい配球でしたね」。マスクをかぶっていた背番号62には、どんな景色が見えていたのか。この1打席にとどまらない“伏線”を使って、レイエスの裏をかいてみせた。

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続きの内容は

・海野が語る、会心のリードに隠された「つながり」とは
・杉山が明かす、レイエスとの対戦で「見えなかった」もの
・捕手・海野が感じた短期決戦の「難しさ」と「本音」

海野にとっても会心のリード…強調した言葉は「つながり」

「いろんなつながりと、流れと。バッターの心理的なものを考えて、あの球を選択したという感じです」

 あの1球を選択した理由を説明した海野は、続けて「僕も腹を括っていましたし、ベストボールを投げてくれた」と頷いた。具体的な理由を明かすことはなかったが、強調したのは「つながり」という言葉。海野にとっても、会心のリードであったことは間違いないはずだ。

 杉山もレイエスとの対戦を振り返った。1球目、2球目とフォークが低めに外れる。3球目の直球で見逃しのストライクを取ると、4球目はゾーン内のフォークを空振りさせて追い込んだ。「詳しくは言えないですけど、マウンドに行く前に(海野と)話はしっかりとしていたので。僕もすんなりいけました」。勝負の5球目、ラストボールが直球だったことにも驚かなかったという。事前に決めたプランと頭の中で描くビジョンをすり合わせ、渾身の1球を投げ込んだ。

今季の杉山一樹はレイエスと6度対戦して4三振

「その前に対戦した時(9月18日)も、確かフォーク、フォークで最後は真っすぐで空振り三振だったと思います」。杉山がたどった記憶の通り、当時の対戦は3球連続のフォークで追い込み、最後は高めの直球で空振り三振を奪っていた。

「それまでにも何回か対戦しているんですけど、ほとんど(勝負球が)フォークなんですよね。フォアボールもありましたけど、シーズンを通してこういう配球を組み立てて、いろんなことを考えてきました。僕も(CSの最後の打席で)自分の中でフォークで空振りっていうのはイメージとして“見えなかった”ので。真っすぐしかなかったですね」

 今季、レイエスとは6度対戦し、5打数1安打1四球。奪った4三振のうち、3つの決め球はフォークだった。長いペナントレースを通して、植え付けてきた「杉山=フォーク」というイメージ。最後の最後でそれを逆手に取り、156キロの直球をズドンと通してみせたのだ。捕手の力量が問われる短期決戦という舞台。海野は「難しさもありましたけど、あまり考えすぎずに。勝ててよかったです」。そう語る表情は、本当に頼もしかった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)