4月18日の西武戦以来…半年ぶりの1軍出場
大歓声を背に受けて、1軍の舞台に帰ってきた。17日に行われた日本ハムとのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ第3戦。代打で出場したのが正木智也外野手だった。半年という長期のリハビリを乗り越えた25歳。ふと思い出したのは、筑後で支えてくれたファンの存在だった。
勝てば日本シリーズ進出が決まるという一戦だったが、序盤から追いかける展開となった。先発の上沢直之投手が6回2/3を投げて6失点(自責5)。打線も相手先発の伊藤から得点を奪えず、試合は7回に突入した。2死一塁で小久保裕紀監督が動く。海野隆司捕手に代わって打席に立った正木は、3ボール1ストライクから積極的にスイングを仕掛けたが、力ない遊直に終わった。「打つ球は間違っていなかったと思いますけど、いい投手からヒットを打つのは難しいなと思いました」と振り返った。
昨年は7本塁打を放ち、リーグ優勝に貢献。今季も開幕スタメンを射止め、誰もが新しいレギュラーの誕生を疑わなかった。しかし、4月18日の西武戦(ベルーナドーム)で強振した際に左肩を亜脱臼。「バンカート修復術」を受け、全治5~6か月と診断された。半年にわたるリハビリを乗り越えてきたことは、ファンも知っている。本拠地を包み込んだ大歓声は、正木にとって思わず感動してしまう瞬間だった――。
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続きの内容は
正木が明かす、ファンへの「偽らざる感謝」
早朝リハビリを支えた「意外な光景」とは
首脳陣が語った、正木の「今後の起用法」
リハビリ組の朝は早い…正木が感謝するファンの存在
「あんな歓声になるとは思わなかったので。ちょっと鳥肌が立ったというか、嬉しかったですね。打席に入るまではだいぶ緊張しましたけど、入ったら意外としなくて、冷静にいけたので。うまく集中できたかなと思います」
声援はしっかりと耳まで届いていた。ホークスファンが背番号31の存在を必要としている何よりの証。リハビリ期間も応援してくれる人の存在が糧となり、自身を突き動かしてきた。「筑後にまで来てくれるファンの方もたくさんいたので。すごく力になりましたし、1軍に出ていなくても見てくれている人はいるんだなと感じました。それが自分の『1軍に戻ってやる』という気持ちにつながったと思います」。口にしたのは、純粋な感謝の思いだった。
気温が上がる昼間を避ける目的もあり、リハビリ組の始動は朝早かった。午前8時、タマスタ筑後の室内練習場に集合する。外にはもう自分のグッズを持ったファンが待っていた。「遠目からでも31番だとか、そういうのは僕もすぐにわかります。平日だったり、なかなか交流する機会がなくても朝から来てくれていたので。それだけでも嬉しかったですね」。一時は“今季絶望”だと思ったが、絶対に諦めなかった。支えてくれる存在がいたからだ。
「半年ぶりの打席でしたし、悔しい思いもした中で自分なりにリハビリを頑張ってきました。怪我をして全治5、6か月と聞いた瞬間は『もう今年は戻れない』と思ったんですけど、こうして戻ってこられたので。前向きにやってきてよかったなと思います。きょうは打てなかったので、こういう舞台で今度こそ打ちたいってやる気にもなりましたし。もっともっと頑張らないといけないなと思いました」
村上コーチと大西コーチ…首脳陣が語った現状と評価
1軍に昇格して以降、守備に就く可能性は事前に伝えられていた。遊直に倒れた後、ベンチに戻ると声をかけてきたのは奈良原浩ヘッドコーチだった。「ダイビングは絶対するなよ」。左肩にはサポーターを巻き、動きにはまだ制限がある状態。首脳陣から、はっきりとした言葉で念を押された。8回には飛球を処理。「無難にこなせたことは収穫だと思います。自分ができることを精一杯やって、与えられたところで結果を出していきたい」と頷いた。
村上隆行打撃コーチも「あれだけ振れていたらね。内容も良かったと思うし、打てそうでしたよ。きのう(16日)もずっと準備をさせていたので」。まずは無事に復帰できたこと、力強いスイングを仕掛けられたことを評価した。大西崇之外野守備走塁兼作戦コーチも「点差があったし、早めに1軍の試合の感覚を味わわせておきたかった。そういう意図もあったし、打球が飛んでいっても問題なかったよね」と手を叩く。正木の存在が、この先の戦いで首脳陣の選択肢を広げていくはずだ。
日本シリーズ進出に王手をかけている状況は同じ。あと1勝を掴むために、全力を尽くすつもりだ。「リハビリから復帰して、自分なりにやってきたつもりだったので。不安とかはなかったですね。2軍でもいっぱい打席に立たせてもらったので、すんなり入ることができました」。10月17日、182日ぶりに戻ってきた1軍の舞台。ファンから浴びた大歓声は、深く深く胸に刻まれた。
(竹村岳 / Gaku Takemura)