清宮を狂わせた緻密な“仕掛け” ヘルナンデスの奪三振に凝縮されたクレバーさ

ダーウィンゾン・ヘルナンデス【写真:加治屋友輝】
ダーウィンゾン・ヘルナンデス【写真:加治屋友輝】

第2戦の7回から登板し、無失点リリーフ

 打ちにくいフォームを、さらに際立たせるための緻密な計算があった。16日に行われた日本ハムとのクライマックスシリーズ第2戦(みずほPayPayドーム)。先発の有原航平投手の後を継ぎ、7回のマウンドに上がったのがダーウィンゾン・ヘルナンデス投手だった。0-0で迎えた緊迫した場面、最速156キロを誇る剛腕が、しびれる場面でチームの期待に応えた。

 先頭打者を打ち取った後、1死から万波にライト前へ運ばれた。しかし、ヘルナンデスはここからギアを上げた。続く代打・松本を左飛に打ち取ると、2死一塁で打席にはこの日2安打と当たっている清宮を迎えた。ここで見せた5球には左腕の工夫が凝縮されていた。最後はスライダーで空振り三振に斬って取り、雄叫びとともに無失点でベンチへと引き上げた。

 この場面でヘルナンデスは打席の清宮に対して、ある”仕掛け”を凝らしていた。一見すると些細な動きだが、そこには打者の感覚をわずかに狂わせるための計算があった。パワーだけではない、左腕のクレバーな一面が垣間見えた瞬間とは――。

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続きの内容は

・ヘルナンデスが明かす、プレート上の「秘密の駆け引き」
・清宮選手を抑えた、”あの球”に隠された思考
・昨季の悔しさが生んだ、頂点への「強い執念」

細やかなプレート上の駆け引き

「清宮選手が特別じゃなくて、シーズン中から打者によって変えています。特に左バッターの時に多いです。動いていることを打者に見せたいんです。インコースに投げる時に一塁側に寄ったり、アウトコースでもあえて三塁側に立つ時もあります。スライダーでも角度を出したい時は一塁側に寄ったりします」

 ヘルナンデスが打者を打ち取るために用いたのは、投球ごとに“プレートを踏む位置を変えること”だった。同じ腕の振りから放たれるボールでも、リリースポイントの角度が微妙に変わる。このわずかな変化が、打者の考えや感覚を惑わせ、目線を変えることによってボールを捉えることを困難にさせる。相手に恐怖心を与えるフォームから繰り出す剛速球のイメージが強いが、細かな工夫が見られた場面だった。

 この日の清宮は当たっていた。その事実も、ヘルナンデスの頭脳を刺激した。「すごくいい構えをしているように感じたので、バッティングのリズムを変えようと思って投げました」。清宮に対する4球目は、三塁寄りのプレートからアウトコースにストレートを投げ込んだ。そして5球目は一塁寄りからスライダーを投じ、バットに空を切らせた。2安打を放っていた清宮を相手に出した最高の結果。相手の状態を冷静に見極め、力一辺倒ではない投球術を見せつけた。

昨季の悔しさを胸に頂点へ「とにかく勝ちたい」

 昨季は48試合の登板で防御率2.25、72奪三振を記録。試合数を大きく上回る奪三振数はヘルナンデスの代名詞だ。しかし、今季はシーズン途中に左太ももの負傷で離脱するなど、42試合の登板で奪三振は43に留まった。勝ちパターンからも外れるなど、本調子のシーズンを過ごせていたわけではない。それでも、この大一番での投球はチームにとっても大きな価値があった。

 多くの経験があるとはいえ、1勝の重みが違うクライマックスシリーズの緊迫した場面での登板。それでも、「自分としては全く関係ないです。マウンドに上がった時は0点で帰る。もしやられてしまったら、気持ちを切り替えて次の日に行く。そういうシンプルな考え方でいつもマウンドに上がってます」と、普段と変わらない心境で腕を振った。

「僕はとにかく勝ちたい。勝つためにチームをサポートするだけです。去年も本当に勝ちたかったんですけど、日本シリーズで負けてしまって悔しかった。今年は最後まで勝っていけるように頑張りたい」。昨季、あと一歩で逃した頂点。その悔しさがエネルギーだ。剛腕が見せた、打者を打ち取るための執念。チームを日本一へと導く投球を、この先も見せてくれるはずだ。

(飯田航平 / Kohei Iida)