多くの感情を抱いたサヨナラのホーム
ベンチを飛び出してからサヨナラのホームを踏むまでの8分間。多くの感情が交錯する時間だった――。15日に行われた日本ハムとのクライマックスシリーズ・ファイナルステージ。1-1で迎えた延長10回、1死満塁で山川穂高内野手が放った左前打で劇的な決着がついた。
「人生で一番緊張したんじゃないか、というくらい緊張しました」
勝利の余韻が残る中、安堵の笑顔でそう語ったのが、代走でサヨナラのホームを踏んだ庄子雄大内野手だ。10回、先頭打者の栗原陵矢内野手が四球を選ぶと、ベンチは迷わずルーキーを代走に送った。1点を奪えば勝利が決まる大事な局面。ベンチを出てからホームに生還するまでの間に、23歳が抱いたのは意外な感情だった。「ああいう場面で代走に使っていただけるっていうのは……」。その心境に迫る。
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続きの内容は
・庄子選手が明かす、大舞台での意外な本音
・コーチ陣が語った、庄子への具体的な指示
・先輩たちが贈った、感動の「あの言葉」
CS初戦での抜擢…「すごく自信になった」
「レギュラーシーズンでは大事な局面での代走や守備があまりなかったので、びっくりしたというか。もし点が入っていなかったら守備もあるわけなので。今までこういう緊迫した場面で代走の経験はなかった。CSという大事な初戦の、あのような局面で起用してもらえたことが、すごく自信になりました」
ルーキーイヤーの今季、庄子は26試合に出場。そのうちスタメンは3試合で、主に代走や守備での起用だった。この日も当然、代走の準備はしていた。延長に入った時点で、出番が来れば自身が勝負を左右する走者になることも理解していた。それでもいざ代走が告げられると、シーズン中にはなかった大一番独特の雰囲気に、少し弱気な感情も芽生えたという。
「CSは初めて経験することなので『レギュラーシーズンとは違うな』というのはベンチから一塁へ行くまでに感じました。『ここで庄子が行くのか』みたいな雰囲気を……。スタンドのお客さんたちもそう思っているんじゃないかなと。自分が勝手にネガティブになってしまっただけかもしれないんですけど」
しかし、庄子はすぐに目の前のプレーに集中した。一塁ベース上では、本多雄一内野守備走塁兼作戦コーチと相手投手の牽制の特徴について確認。「ここは慌てる場面じゃない、と。一番やってはいけないことは何かを考えて、落ち着いてプレーできました」。その後は三塁へ進み、打席に山川を迎えたところで日本ハムは投手を交代。その投球練習の間も、大西崇之1軍外野守備走塁兼作戦コーチとイメージをすり合わせた。
「ワンアウト満塁だったので、一番やっちゃいけないのはライナーゲッツーだと。そこをケアしながら、『ゴロでいいスタートを切る必要はない』と大西コーチからも言われていました。速いサードライナーとかでゲッツーになる可能性があるので、そういう意識はいらないと。自分もそう思っていたので、まずはそこをケアすることに集中しました」
感謝を胸に踏んだホーム…「自分を信じてくれた」
打球が三塁手の頭を越えると、自然と拳を突き上げた。「『よっしゃ越えた!』と思って腕が上がっちゃいました」。ホームベースを踏むと、川瀬晃内野手と周東佑京内野手が庄子に駆け寄ってきた。「『ナイスラン』『よく走った』と声をかけていただきました」。大きなプレッシャーの中でグラウンドに立つことを理解してくれる先輩たちの言葉が、何よりも嬉しかった。
「いろんな選択肢があった中で、自分を選んでいただいたことが本当に嬉しかったです。ああいった場面で任される経験が初めてだったので。『ここで自分を信じてくれたんだ』と。自分の成長を評価していただいているのかなと、すごく感じました」
大事なCSの初戦をものにしたのはもちろん、この経験が庄子をさらに成長させたこともチームには大きな財産だ。多くの思いが交錯したグラウンド――。一瞬よぎった弱気を振り払い、期待と信頼を背負ったルーキーは、堂々とダイヤモンドを駆け抜けた。
(飯田航平 / Kohei Iida)