イヒネ・イツアのバッティングを見て「これならいける」
鷹フルがお届けする松山秀明2軍監督の単独インタビュー。全3回のラストは、イヒネ・イツア内野手の成長と課題について語ってもらいました。今季、2軍戦で打率.259と一定の結果を残した21歳。「あとは彼の性格をどうコントロールするか」――。指揮官がそう語った真意とは?
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惜しくもウエスタン・リーグ3連覇を逃したホークス2軍。9月28日の最終戦まで優勝を争い、熱い戦いを繰り広げた。今シーズン、ファームで象徴的だった存在が、高卒3年目のイヒネだ。「ああ、これならいけるな」。見守り続けてきた松山監督も、変化と成長に目を細めた。
2022年ドラフト1位で愛知の誉高から入団。今季はチーム最多の110試合に出場して打率.259、リーグ2位の30盗塁を記録した。5月27日に自身初の1軍昇格を果たすと、一流選手たちの姿を目の当たりにした。小久保裕紀監督も「(その後に)2軍に落ちても、取り組みがずっと変わっていない。それくらい、全然違いますよね」と、変貌を遂げた取り組みに唸っていた。わずか5日間の1軍体験だったが、貴重な財産を得る時間となった。
2024年は2軍で打率.177。「自分にガッカリした」と語るなど、プロの壁にぶち当たった。苦難を味わいながらも、一歩ずつ成長を遂げている21歳。松山監督の目から見て、イヒネの何が変わったのか。
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続きの内容は
・松山監督が抱いた、イヒネへの“本当の不安”とは
・イヒネの「継続力」を裏付けた、首脳陣の証言
・守備力向上の鍵を握る、イヒネの“性格”の真意
2軍戦後は必ず打撃練習…首脳陣も見守っていた継続する姿
「最初はバットを短く持ったり、いろんなことをやっていましたよね。ダメだった去年の自分を自覚して、それを今度はどうすればいいのか。僕は『2割5分を打てるバッティングにしなさい』って彼にも注文しました。ずっとコーチと取り組んでいる姿を見ていると、『あ、これはいけるんじゃないの』って。この打ち方を続ければ、いけるかなと思いました」
2軍戦で対戦するのは、NPBの投手たち。3軍や4軍と比べてレベルが数段上がるだけに、松山監督は“懸念”も抱いていた。「問題はボールを捉えられる目が彼にあるのかどうか。僕の中での不安はそれでした。形ができたとしても、動いているボールを捉えるのは目なので。対応能力と順応性が、一番大事になってくると思っていました」。150キロを超える直球や、鋭い変化球についていけるか。一定の結果を残したことで、首脳陣を安心させた。
タマスタ筑後での試合後、必ずバットを手に室内練習場に消えていく。黙々と打ち込んで修正をかける姿に、周囲は「継続性」を感じるようになった。「(結果が)まぐれではないことはすぐわかりました。僕らは何千人とプロ野球選手を見てきたので、スイングがいいか悪いかは、大体わかります。彼は打率.180くらいの時から続けていたので、1軍でもなんとかなるんじゃないのかなって思っていた」。変わることができたのは、練習を積み上げてきたから。イヒネが日々努力する姿を、首脳陣はしっかりと見守っていた。
三塁&遊撃の守備では22失策を記録した
一方で課題が残ったのは守備面だ。三塁で7、遊撃で15失策を喫した。昨シーズンは遊撃のみで20失策だっただけに、松山監督も「走攻守ができてプロだし、その3つが1軍レベルに達しないと上にはいけないので。(失策の)数字が減っていかないと『上手くなった』とはまだ言えないですね」と注文をつける。打撃面では地道な継続が実を結んだことを知っている。だからこそ指揮官は「彼の性格をどうコントロールするか」と、自らの考えを明かした。
「バッティングでは同じことを半年以上も続けられたんですから。守備に対する思いも同じじゃないとダメですよね。イヒネはハングリーな部分も持っているし、あとはその気持ちが守備にも向いていくかどうか。打つことに関しては性格をコントロールできているんですから、他のプレーにおいても重要性を感じられたら、もっと成長できると思います」
ほんの小さなミスが失点につながり、チームの敗戦につながるかもしれない。ワンプレーの重みを理解して、どんな時も全力で白球を追う。「ハングリーな気持ち」を生かして、守備力の向上につなげてほしいと指揮官は願っていた。
10月7日には、球団から今季限りで退団することが発表された指揮官。「これからも若い選手の記事をいっぱい書いてやってくれ。またどこかで会えるでしょう」と優しく笑い、みずほPayPayドームを後にした。2軍監督を全うし、多くの財産を残した2年間。1人でも多くの若鷹が、1軍を勝たせられるように高く羽ばたいてほしい。
(竹村岳 / Gaku Takemura)