首位攻防戦の舞台裏「優勝はもういい」 覆した発言…松山監督が感じた“去年との違い”

中日戦に敗れミーティングで訓示する松山秀明2軍監督【写真:竹村岳】
中日戦に敗れミーティングで訓示する松山秀明2軍監督【写真:竹村岳】

首位攻防戦の前に伝えた「力を出せる選手になってくれ」

 鷹フルがお届けする松山秀明2軍監督の単独インタビュー。全3回の2回目、テーマは「首位攻防戦の舞台裏」についてです。選手たちの姿から感じたのは、ある種の“自信のなさ”でした。「優勝は、もういい」――。あえてはっきりと伝えた言葉に、指揮官の信念が表れていました。

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 2軍が9月に迎えた“天王山”。指揮官は自らの言葉を覆すしかなかった。「方向転換しました。自信がなかったんでしょうね」。明かしたのは首位攻防戦の「舞台裏」。選手たちが重圧を背負っていると、松山監督は感じてしまった。

 7月末から始まったウエスタン・リーグの後半戦。3ゲーム差で追いかけていた中日を抜き去り、ホークスは首位に立った。デッドヒートは続き、1ゲーム差で迎えた9月9日からの3連戦。敵地・ナゴヤ球場で行われた首位攻防戦の第1ラウンドを前にして、松山監督はナインを鼓舞した。「こういう中で力を出せる選手になってくれ」。しかし、試合は6-18で大敗。すぐさま「優勝は、もういい」とあらためて伝えた。

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続きの内容は

・松山監督が語る、V逸の真の理由とは
・選手に自信がないと感じた、その背景
・育成と勝利、指揮官の揺るがぬ信念

「バッターなら4打数4安打、ピッチャーならノーヒットノーランを」

「(9日の試合までには)去年と同じように、優勝っていう言葉を前面に出した。プレッシャーを与えたんですけど、(選手たちが)空回りしているとすごく感じたので。優勝するということよりも、自分たちがやれること。バッターなら4打数4安打、ピッチャーならノーヒットノーランを目指すつもりで。そういう考え方で野球をした方がいいと思ったから、『優勝はもういい』と。自分たちがやるべきことをやってアピールしてくれ、と言いました」

 同じくウエスタン・リーグを制覇した2024年は、マジックが減るにつれ、松山監督は「優勝」という言葉を使って選手たちの士気を高めた。“同じ効果”を期待したが「去年はそれで盛り上がって『勝つぞ』みたいな雰囲気になったんですけど。今年は『こんな(情けない)試合をしていたら、どうするんだ』みたいな声があまり出なかったのは事実です」と冷静に振り返る。指揮官は育成よりも勝利を求めたことが間違いだったとすぐに認めた。昨季との決定的な違いが、選手が醸し出す雰囲気に漂っていた。

「なんでそうなったのか僕なりに考えると、やっぱり自分たちにまだ自信がないのかなと。だからそういう言葉が出せないんだろうなって思いました。僕たち(首脳陣)もそうですけど、思っている言葉を口に出すのはすごく勇気がいること。間違っていたら信用をなくすかもしれないし、消すことはできない。そういう怖さがあって、声に出せない、勇気がないのかなって感じがしました。だから方向転換しましたね」

勝てば優勝という状況で…結果はまさかの3連敗

 9月26日からは、再び敵地で中日との3連戦を迎えた。1勝でもすれば優勝という状況で、結果は3連敗。まさかの形でV逸となり、2025年の戦いは終わった。松山監督は「勝たせられなかったのは僕の責任です」と頭を下げた一方で、選手を育成するための采配を最後まで貫いたのも事実だ。2軍監督に就任して2年目。ナインと向き合い続ける日々の中、どんな信念を抱いてきたのか――。

 指揮官が重要視するのは「個人のスキルを上げること」だ。選手によって、持ち味は十人十色。かける言葉も、指導法も微妙に変えながら距離感を図っている。「監督という立場で言えば、僕はあんまり全体を見ないかもしれないです。選手それぞれに対して全く同じ扱いなんてできないし、自分がやりたいこととかないです。ただ選手を伸ばしたい。そのための采配をしているし、全てそれが基準で動いていますね」。胸の中にあるブレなかった“芯”。若鷹たちが将来、結果で応えてくれるはずだ。

 球団において、最も重要なのは1軍の勝敗だ。選手それぞれの技術と、チームの勝利でファンを喜ばせる場所であることは間違いない。一方で、ファームは育成の場。松山監督も「球団から投資されて、教育できるチャンスをもらっている立場ですよね。みんなが学べるだけの環境がそこにはありますけど、利益という視点ではまだまだなので。だから1軍と2軍では、考え方が全く違います」と強調した。だからこそチームを背負って立てるように、若鷹たちは野球に没頭しなければならない。

(竹村岳 / Gaku Takemura)