中日に3連敗を喫して痛恨のV逸
敗れてもなお、指揮官の表情は清々しかった。ホークス2軍は26~28日のウエスタン・中日戦で痛恨の3連敗を喫し、3年連続のリーグ優勝を逃した。28日の敗戦直後、ナゴヤ球場の食堂にナインを集め、思いを伝えたのは松山秀明2軍監督だった。「優勝できなかったのは僕の責任。ここまで争えたのは選手たちが頑張った結果なので」。全てをぶつけた最後の一戦。指揮官があえて重圧を背負わせたのは、笹川吉康外野手だった。
3連戦で1つでも勝てば3連覇が決まるという状況から、ひっくり返された。1-2で敗れた28日の試合後、選手たちはタクシーに乗り込んで球場を後にしていく。グラウンドで行われた優勝セレモニーの歓声が、一塁ベンチにも聞こえてきた。

試合前に松山監督は選手を集めて、こう訓示した。「やりたくてもできない経験。こういう緊張感も楽しめるように。泣いても笑ってもシーズンは終わり。この1試合、自分たちがどれだけ力を出せるか。楽しく終わりましょう。結果は僕の責任なので。やるべきことをやってください」。力強いナインの返事とともに、輪が解けていく。そして、指揮官は笹川だけを呼び止めた。自分自身の“決意”を伝えるためだった。
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続きの内容は
・笹川を4番に置いた指揮官の「真意」
・育成の鍵を握る若手投手の「課題」
・V逸から見えた、ホークスの「未来」
笹川吉康は2軍で本塁打&打点の2冠
「吉康、俺はもう腹括って4番に入れたぞ」
プロ5年目の笹川は今季、ウエスタン・リーグで12本塁打、64打点の2冠に輝いた。最後の一戦で打線の“中心”を託すのに、ふさわしい成績を残してきた23歳。4番を任せた理由について指揮官は「僕の思いだとか、そういうのは一切ないですよ。選手がいい経験をするために選んだし、それが僕の仕事なので」と語る。自身の気持ちは排除して、選手のためにスタメンを決めた。2軍が追い求めるのは、勝利ではなく育成。最後の最後まで、その信念を首脳陣は貫いた。
「(4番以外のメンバーについて)いつも通りですよ。選手を育成して、いつか1軍で活躍ができるように。この日を経験させてあげたいということです。それが彼らのスキルアップにもなるし、こういう試合で力を出せる選手になってほしいというのは、いつも言っていることですから。1軍にいけばこれ以上のプレッシャーがある。そこで力を出せて初めて勝負ができるので」
指揮官の期待を背負った笹川は4打数無安打。1点を追う9回無死では空振り三振に終わった。育成という指針について松山監督は「負けた僕が言っても何の価値もない」と前置きしつつ、「こんな一発勝負はプロ野球でもなかなか体験できない。勝ったら当然プラス。負けたとしても悔しさだとか、この気持ちを前向きに持っていけるように勉強してほしい。これからの野球人生にもつなげられるように」。明確な“旗印”のもと、最終戦のオーダーを決めた。V逸という結果は潔く受け止めたが、後悔などあるはずがなかった。
投手起用では若手コンビに“リベンジのチャンス”
投手起用では“リベンジ”のチャンスも与えた。3点差で敗れた27日の第2戦、先発バッテリーを任せたのは岩崎峻典投手と藤田悠太郎捕手だった。同じコンビで挑んだ9日の中日戦では、4回1/3を投げて9失点。チームとしても18失点の大敗で、首位の座を明け渡した。リーグ優勝がかかった一戦だとしても、首脳陣は迷うことなく2人を送り出した。
「(5回まで)1点で抑えたところまでは良かったけど、6回のピッチングが彼の評価の全て。あの回になんでああなったのか、課題をしっかり見つめ直せという話はしました」。6回に3点を失った岩崎の投球について、指揮官は言及した。先発マスクをかぶった藤田悠について、細川亨バッテリーコーチは「球団の方針ですからね。2軍は育成、そして1軍にいける選手を作る場所。どうやって粘って試合を作るんだろうなと思って見ていましたけど、首を振られながら、ベンチで話もしながら。試行錯誤していたし、少しずつ成長していると思います」と評価した。
2軍の方針は最後までブレなかった。スタメン落ちしたことに複雑な感情をにじませる若鷹もいた。松山監督は「ここまで来られたのは選手のおかげだし、感謝している。負けたことに関しては謝るしかないです」。きっぱりとした口調で、深々と頭を下げた。スーツに着替えて、球場を後にした笹川。その表情からは、溢れ出る悔しさが伝わってきた。1人1人の選手が、この経験を糧にして、必ず成長する。2025年の戦いを無駄にしないように――。
(竹村岳 / Gaku Takemura)