
鷹4年目で2度目のリーグV「体が万全なら勝負できる」
ホークスは2年連続のリーグ優勝を飾りました。鷹フルでは主力選手はもちろん、若手やスタッフにもスポットライトを当てながら今シーズンを振り返っていきます。藤井皓哉投手が明かしたのは、首脳陣への“直談判”。9勝15敗2分けと苦しんでいた4月30日、打ち明けたのはチーム内に対して感じていた「緩み」でした。「もう1回、見直しませんか」――。
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いても立ってもいられなくて、29歳の右腕は心を奮い立たせて扉を叩いた。3、4月は9勝15敗2分けと、かつてないほど苦しい船出。藤井が首脳陣に向かって思いを訴えたのは、4月30日の出来事だった。「見直しませんか」。そう口にしたのは、投手陣の現状が「緩いな」と映っていたからだ。
藤井は今季51試合に登板して2勝3敗2セーブ、19ホールド。防御率1.44の安定感を誇り、必勝パターンの一角としてリーグ優勝に貢献した。昨シーズンは終盤に腰痛を発症して離脱。今季は開幕から“完走”を果たし「体の変化には敏感でいましたね」と振り返る。「状態が万全なら勝負できる。自分というより技術のことで悩めたので、いいサイクルだったと思います」と胸を張った。
ホークスに入団して4年目。自覚ある行動を示したのは、4月30日だ。日本ハム戦(みずほPayPayドーム)に敗れて4連敗を喫すると、王貞治球団会長がナインを集めて檄を飛ばした。その後、藤井が倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)のもとへ足を運んだ。異例の“直談判”。チーム状況を少しでも変えるために、腹を割って気持ちを伝えた。
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続きの内容は
・藤井投手が明かした「緩み」の真相とは?
・倉野コーチが語る「直訴」の衝撃と舞台裏
・チームを変えた「あの言葉」と優勝への軌跡
裏方さんにも事前に相談…異例の“直談判”の舞台裏
「チームが勝てていない状況の中、やることができていない選手が多かったんです。特に若い選手。片付けや挨拶ができなかったり、試合ではないんですけど移動の時に遅刻してきたりとか。そういうところが顕著に見えていました。だから『もう1回、見直しませんか』みたいな話はしました。今まではそれが普通にできていた。勝つか負けるかは相手がいることですけど、それに気がつかないのはおかしくないかなっていうのがあったので」
ストレッチポールや、メディシンボールといった投手が練習するための道具は、トレーナーやSC(ストレングス&コンディショニング)らが準備することが多い。「誰かがやってくれているんですよね。そういう気持ちがあれば『あったところに戻そう』ってなるはずなので。僕は『めっちゃしっかりしろ』とは思わないですけど、荷物があるのも当たり前に感じているように見えたし、その時は“緩いな”と思いました」。周囲に支えてもらっている感覚は、絶対に忘れてはいけない。倉野コーチに胸の内を真っすぐに伝えた。
1人の選手が、首脳陣に思いを直訴する。勇気が必要だったはずだ。「裏方さんや、いろんな人に相談はしました。『言った方がいいんですかね』って」。個人的な意見という枠を飛び越え、チームのために言葉を発した。「1軍で活躍している選手は、そういうところが当たり前にできている。カープの時も思いましたし、ホークスにきてからもたくさんの先輩を見てきたので。僕はそれが普通だと思います」。
2022年からホークスの一員となり、今季が4年目。今シーズンでいえば、ブルペン陣では松本裕樹投手と並んで年長者という立ち位置だった。“柱”として、自覚あふれる行動に「先発投手は毎日いる状況じゃないですし、リリーフだともう僕たちが年上じゃないですか。後輩に見られているというか、やらなきゃ上手く回らないと思ったので」と照れくさそうに語る。勇気ある行動がリーグ連覇へとつながったはずだ。
過去にもあった“事例”「自分のことを棚にあげる」
倉野コーチも「藤井のおかげで気付かされた部分です」と頭を下げる。首脳陣の1人として、心の扉は常にオープンにしている。「立場もあるので、気軽に言えることではないかもしれませんけど。自分の価値観だけで言っているのか、チーム全体を良くするために言っているのか、それは判別できますから」。真正面から厳しい言葉を受け止めたのは、投手陣が一丸となるために何かを変えなければならなかったからだ。
「あの時ってあまりチーム状況が良くなかった。とにかく惰性、“なぁなぁ”になっている部分をもう1回見直そうよと。もう1回やるべきことをやりましょうと。藤井の言うように挨拶だとか、そんなところも然りだけど、緩んでいる部分っていうのはありましたし。選手自身が感じるってことは、もっと僕らがしっかりしないといけないなっていうのはありました」
雰囲気が悪くなれば、自然と周囲に責任を探し始める。長い指導歴を誇る倉野コーチも危惧していたのはその部分だった。「チームが悪くなる時って、自分のことを棚に上げてしまう。過去にも負けている要因を探して、仲間内で話したりするっていうことはありました。今シーズンの最初も、まさにそうなりうる可能性があったので。みんなを集めて『なんとかしましょう』という話はしました」。プロである以上、何かを変えるなら自分が変わるしかない。1人1人が足元を見直すため、投手陣は春先から何度もミーティングを重ねた。
4月30日の日本ハム戦後、背番号48は暗い表情でこう話していた。「勝たないと面白くないですよ」。“プロ意識”を胸に、それぞれがチームを変えようとした。規律を取り戻し、5か月後に待っていたのは最高の瞬間だった。「めちゃくちゃ嬉しいですね。やっぱり、勝たなきゃ面白くないでしょ?」。チームとファンが一丸となって掴んだパ・リーグ連覇。歓喜の輪に加わった藤井皓哉は、心から笑った。
(竹村岳 / Gaku Takemura)