「あえて変えない」…その言葉の本質とは
剛腕がマウンドで躍動した。25日の楽天戦(楽天モバイルパーク)、2点リードで迎えた8回の緊迫した場面。松本裕樹投手がマウンドに上がると、2番・浅村から始まる楽天の好打順を完璧に封じ込めた。今季の自己最速となる158キロの速球も披露。3者凡退に仕留める快投で、優勝へのマジックナンバーを「2」に減らした。
その脳裏に、3日前の悪夢がなかったはずはない。22日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)で手痛い一発を浴び、敗戦投手となった。ベンチではグラブと帽子を叩きつけ、冷静沈着な男が珍しく感情を露わにした。あの屈辱からどうやって立ち上がったのか。快投の裏には、悔しさの中で掴んだ「変化」のきっかけと、同僚からの一言があった。
会員になると続きをご覧いただけます
続きの内容は
・松本裕樹が明かす感情爆発の真相
・杉山一樹がかけた言葉の全貌
・自己最速158キロを生んだ変化とは
「展開も展開でしたし、一発は避けなきゃいけない場面で打たれてしまった、というところはあります。真っすぐを投げずにスライダーを3球続けたことにも、自分の中で後悔っていうか……。引っかかる部分があったので」
22日の試合で感情を爆発させた理由をこう語った松本裕。自身の配球への後悔も口する。そんな右腕に声をかけたのが、20日の同じくオリックス戦で9回に勝ち越しを許し、敗戦投手になった杉山一樹投手だった。
「僕もやられていたので。マツ(松本裕)さんにも『2人仲良くやられてしまいましたね。次に切り替えましょう』といった話をしました。あと数試合しかないので、勝てばいいだけなので」。同じ痛みを分かち合う仲間だからこそ、その言葉には重みがあった。
確定した最優秀中継ぎ投手のタイトル
中2日で迎えた25日のマウンド。前回登板の悔しさを引きずる様子はなかった。「そこ(22日の試合)を踏まえてどうこう、というところはなかったです。ボール自体は悪くなかったので、あえて何かを変えるということは自分の中ではせずに、同じような気持ちで臨みました」と、松本裕は落ち着いた口調で振り返る。
「もう次の日からは、またやるしかないと気持ちを切り替えました。ここまでやってきたことは変わらないので、それを出すだけです」。これまで積み上げてきたものへの自信が、右腕を強く支えていた。
この日の投球で一際輝いたのが、自己最速に1キロ迫る、158キロの直球だ。松本裕はその要因について、「フォーム的な部分でちょっと変えたというか、意識した部分があって。それが良い方向にハマったのかなと思います」と明かす。悔いを残した登板の中にも、次への試行錯誤は忘れることはなかった。わずかなフォームの修正が好投に繋がった。
この試合で今季43個目のホールドポイント(HP)を記録し、最優秀中継ぎ投手のタイトルを確定させた背番号66。「そういうポジションを任せてもらっている以上は、タイトルは取らなきゃいけない」と語る口調は頼もしさに満ちていた。悔しさを乗り越えた剛腕が、チームを歓喜の瞬間へと導く。
(飯田航平 / Kohei Iida)