思い知った野球の怖さ…廣瀬隆太が直面した「2年目の壁」 脳裏から離れぬ“ワンプレー”

廣瀬隆太【写真:加治屋友輝】
廣瀬隆太【写真:加治屋友輝】

弱さを受け入れた2年目「それだけじゃダメ」

 弱さを受け入れたからこそ、前だけを見つめることができる。20日のウエスタン・阪神戦(タマスタ筑後)。廣瀬隆太内野手が放った打球は高々と舞い上がり、左翼フェンスを越えた。2軍での今季初アーチとなった待望の一発に「よっしゃ!」と笑みがこぼれた。「久々に打ったので、気持ちよかったです」。この一言に安堵感がにじんだ。

 今季も1軍を経験したが、7月22日に出場選手登録を抹消されて以降は2軍での調整が続いている。それでも「徐々に良くなってきているかなと思います」。言葉の通り、この日の本塁打で連続試合安打を「5」に伸ばすなど、打撃の調子は着実に上向いてきた。一方で、2年目を迎えた今シーズンに直面していたのは自身の不振だけではなかった。シーズンも最終盤に差し掛かる中で、廣瀬が2年目の苦悩と思いを明かした。

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続きの内容は

・廣瀬隆太が語る「2年目の恐怖」の真相とは
・あの悪送球が、廣瀬の心に残した影響とは
・廣瀬が語る「1軍で自信を取り戻す」方法

「怖さを知りました……。1年目は怖いもの知らずでいけた部分があったんですけど、これからはそれだけじゃダメだろうと。それだけじゃ無理だろうと。しっかり技術もメンタルも強くしていかないと、何もできないなって」

 2年目のシーズンで抱いた感情は“恐怖”だった。きっかけは5月10日のオリックス戦、京セラドームでの悪送球だ。「あれが一番印象に残っています」。昨季は大きなミスなく駆け抜けただけに、たった1つのプレーが心に重くのしかかった。これまで経験したことがなかった野球に対する“怖さ”を、初めて知ったシーズンになった。

「本当に怖さを知りましたよ。忘れないです。2軍で守っている時も京セラでのエラーがずっと頭の中にあります。怖いです。『打球が飛んできたら嫌だな』と守っていて思うことはあります。それくらい頭に残っています」

失ったものは同じ場所で「忘れないです」

 その「怖さ」を、どうすれば乗り越えられるのか。廣瀬の答えは明確だ。「1軍でしっかり守れたら、なくなるんだと思います」。2軍でどれだけ同じような打球を処理しても、“本当の自信”には繋がらない。「1軍でもう1度同じような打球が飛んできて、それをアウトにできたら初めて怖さがなくなる気がします」。失ったものは、同じ場所でしか取り返せない――。その一心で、ファームで汗を流してきた。

 打撃面でも、もがき続けてきた。「1本は打たないとマズいなと思っていたので」。本塁打が出ない日々への不安があったからこそ、この日の一発に安堵の表情を見せた。「全打席狙っていますよ」と語るほど、こだわりはある。タイミングの取り方やバットの形状など試行錯誤を繰り返す中で、ようやく実を結んだアーチだった。

できすぎた1年目「今年はいけるかもと…」

 2年目のシーズンを「経験。いいことも悪いことも、経験がいっぱい詰まったシーズンです」と表現した。1年目から1軍の舞台を経験し、「今年はいけるかもと思いました」と自身に対する期待もあった。しかし、そううまくはいかない。「去年がやっぱり色々とうまくできすぎちゃった部分があった」。それが自信ではなかったことに気が付いた。

「『もっと練習しないとダメだな』と思わせてくれたシーズンでした」と廣瀬は語る。プロの世界の厳しさと、それを乗り越えることの難しさを痛感した。だが、それらは自身の弱さを受け入れたからこそ、得られた気付きでもある。この本塁打は廣瀬にとって確かな第一歩。再び1軍の舞台に立つため、最後までもがき続ける。

(飯田航平 / Kohei Iida)