ライバルに劇的勝利で優勝マジックは「7」に
日本ハムが繰り出した“勝負手”にも、ホークスベンチは動じなかった。ライバルとの直接対決を制し、優勝マジックを「7」に減らした18日の試合。劇的な逆転劇はなぜ起きたのか――。首脳陣が舞台裏を明かした。
1点ビハインドで迎えた8回。日本ハムは古林睿煬(グーリン・ルェヤン)投手をマウンドに送った。今季から加入した台湾出身の25歳右腕は試合前までの5度の登板全てが先発で、さらに3か月半ぶりに1軍登録されたばかりだった。
試合を左右する大事な場面での登板。球場は驚きに包まれたが、ホークスナインは慌てることなく対応した。1死後に栗原陵矢内野手が値千金の同点弾を放つと、続けて古林を責め立てた。1死満塁とすると、川瀬晃内野手が代わったばかりの田中から押し出し四球をもぎとり、決勝点を奪った。会心の展開に選手が喜びを爆発させた一方で、首脳陣の様子はどこか落ち着いていた。
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続きの内容は
・首脳陣が明かす逆転劇の全貌
・栗原の同点弾を生んだ秘策
・7回の逸機もベンチが冷静だった訳
「ある程度、想定はできていました」。そう振り返ったのは奈良原浩ヘッドコーチだった。相手の“サプライズ采配”とも言える継投策への対応を明かした。
「あそこ(8回)は田中投手でくるか、古林投手でくるかとは考えていました。本来なら(7回から)田中投手、上原投手、齋藤投手という流れを考えていた中で、上原投手が7回に登板したので。村上(隆行)コーチとも『まあ多分、田中投手ですよね』『いや、古林投手もあるかもよ』みたいな話はしていたので」
球場は驚きに包まれるも…「もうくるでしょう」
奈良原ヘッドが挙げた試合のポイントは、逆転劇が起こる直前の7回だった。1死一、二塁で日本ハムベンチは先発の北山から上原へスイッチ。この場面で得点を奪うことはできなかったが、防御率0点台を誇る左腕を引きずり出したことが、8回の攻撃につながった。
「きょう(古林が)ベンチに入っていたということは『もうくるでしょう』と思っていたので。相手ベンチの考えなので分からないですけど、古林がうちを抑えていたこともあったんじゃないですかね」
そう明かしたのは村上打撃コーチだった。古林とは今季2度対戦し、計13イニングで2得点と打ち崩すことはできずにいた。その経緯も考慮したうえで、日本ハムの采配は想定内だったと語る。首脳陣は7回の攻撃を終えてから、すぐさま古林のデータをインプット。8回の攻撃が始まる前に、ナインへ攻略法を伝えていたという。
同点弾を放った栗原には「真っスラ気味の球質なので。高めが吹き上がるから、そこを気を付けてくれ」と伝えていたという。「(栗原が)ローボールヒッターなので、そこをしっかりと狙って1球で仕留めてくれた。本当に助かりました」。価値ある一発を放った29歳に“最敬礼”した。
7回の絶好機を逃しても、ベンチの雰囲気に変化はなかったという。奈良原ヘッドが「もうこの時期だからね。『その回が終わったら、もう次の回』っていかないと。選手もそうやってくれている」と話すと、村上コーチも「まだ8回、9回と残っていたので。『もう1回いけるだろう』と。選手たちが諦めなかった証だと思います」と笑みを浮かべていた。
ライバルとのひりついたシーソーゲームを制し、リーグ2連覇は大きく近づいた。ベンチの落ち着きがあったからこそ、選手は100%の力を出すことができた。「本当にいい試合でした。大変有利になったということは感じています」と笑みを浮かべた小久保裕紀監督。首脳陣にとっても会心の勝利に違いなかった。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)