周東佑京から「すみません」 ベンチで謝罪も…上沢直之が返した“心からの感謝”

気迫の投球を見せた上沢直之【写真:栗木一考】
気迫の投球を見せた上沢直之【写真:栗木一考】

1点ビハインドの9回に“笑顔”で応援

 マウンド上で何度も雄叫びを上げた。鬼気迫る表情で腕を振り続けた背番号10の投球が、劇的な逆転勝利をもたらした。13日のオリックス戦(京セラドーム)に先発した上沢直之投手は7回を投げ抜き、スコアボードに「0」を刻み続けた。勝ち星はつかなかったものの、最高の仕事を果たした。

 この日の試合後、8回に好守でチームを救った周東佑京内野手は「そんなことより、上沢さんに勝ちをつけられなかったことが悔しい」と唇を噛んだ。直後の9回にチームは逆転。そんな中、1点ビハインドでも笑顔で応援する上沢の姿が印象的だった。そこにはチームへの深い信頼があった。野手の思いに対し、右腕は何を思っていたのか――。

「やることをやって負けたら仕方ないと思いますし、別に負けているからって暗くなる必要もないです。後半にこういう大事な試合があれば緊張もするし、意識したところで何かが変わるわけではないので。だったら楽しんでやろうという感じです」

「とにかく勝てればいい」

 プレッシャーのかかる終盤戦を楽しむ余裕こそ、今のチームの強さなのかもしれない。この日の上沢は、いつも以上に気迫がみなぎっていた。「意識してどうこうとかはないですけど、とにかく勝てればいいな、勝ちたいなという思いが出ていたと思います」。

 両チーム無得点で進む緊迫した投手戦。サイン交換で見せる表情も険しく、一球一球に込める思いが見て取れた。「集中していたし、点を取られてはいけない場面でしたし、色々なシチュエーションが重なったかなと思います」と、集中しきった状態のマウンドだったと振り返る。

周東に伝えた“数字以上”の感謝

 7回無失点で役目を終え、小久保裕紀監督からベンチで降板を告げられた時、張り詰めていた糸がふっと緩んだ。「先発として、ある程度の仕事はできたかなって部分はあったし、とにかくこの後勝ってくれたらいいなって。少しくらいは緊張が解けた感じがありました」。安堵の表情の裏には、“やるべきことをやれた”自負と、仲間への信頼が込められていた。

 ベンチでは周東から直接「点を取れなくてすみません」と声をかけられていたという。しかし、上沢が返したのは心からの感謝の言葉だった。「そこは本当にありがたいです。だけど、佑京の守備で防いだ点が2点くらいあったと思うし、取る以上に、防いでくれている点数があるので」。

 上沢はすぐにこう続けた。「今まで何試合も点数を取ってもらってきたので、正直そんなに自分に勝ちがつく、つかないは気にしていないです。チームが勝てたのでそれが一番です」。その言葉に一切の偽りはない。勝ち星という目に見える数字以上に、チームの勝利に貢献した。その思いは自身だけではなく、仲間に対しても同じ思いだ。その確かな絆が、首位を走るチームの原動力になっている。

(飯田航平 / Kohei Iida)