主砲から託されたバット 笹川吉康が明かすベンチ裏の会話…「30発、40発って打たなきゃ」

笹川吉康【写真:栗木一考】
笹川吉康【写真:栗木一考】

代打初安打は貴重な同点打に

 鮮やかな逆転劇の裏には、若き大砲候補へ贈られた1本のバットがあった。14日のオリックス戦(京セラドーム)。3点を追う6回に一挙4点を奪って試合をひっくり返したホークス。貴重な同点打を放ったのが、代打で登場した笹川吉康外野手だ。「ワンアウト一、三塁で、点が入りやすい場面。最低限、なんでもいいので1点は入るようにと思っていました」と、試合後に笑顔を見せた。

 海野隆司捕手に適時打が飛び出た直後の1死一、三塁で、山岡のカットボールを右前にはじき返した。小久保裕紀監督が「ファームで(山岡と)対戦しているでしょうから」と期待を込めて送り出した23歳。代打での初安打が鮮やかな同点打となった。だが、この時笹川が使用していたバットは自身のものではなかった。そこには、試合中のベンチ裏で行われていた、“主砲”とのやりとりがあった――。

「曽谷が変わったんで、吉康と僕もちょっと早めに準備していたんです。裏で素振りしているときに、『なんかこのバットいいっすね』っていう話になって、使って打ったっていうところですね」

 こう語るのは山川穂高内野手だ。ともにスタメンを外れ、代打の準備をしている際に背番号44は主砲のバットを使用することを決めたという。「吉康ってスイングスピードがめっちゃ速いんでね。あまり振れすぎても、というのも正直あるので。僕のバットはちょっと重たいので」と、アドバイスを送っていたことを明かす。

「打ったかどうかっていうのは別にして、これから長い野球人生。吉康って30発、40発って打たなきゃ、っていう将来があるので。体に合ったやつを使わないといけないので、バット選びっていうのは大事ですね」。笹川の将来にも期待を込めつつ、バットを授けたという。

山川穂高のバットを使う笹川【写真:栗木一考】
山川穂高のバットを使う笹川【写真:栗木一考】

「大事なところで打てる選手に」

笹川自身もバットの仕様変更に取り組んでいる最中だった。「自分のスイングスピードとバットの感覚が合っていない」という課題を解消するため、従来よりも重いバットを新たに発注しているところだ。「良かったです。少し重たかったけど」と、新たな“相棒”が届くまでは山川のバットを使うつもりだ。

 5日の楽天戦(みずほPayPayドーム)では、今季初アーチを放った笹川。それでも指揮官は笑顔を見せることがなかった。それほどまでに23歳に求める理想は高いということだ。「また“笑顔なし”でした」と明かした笹川。どこかワクワクしたような表情にも見えたのは、指揮官の笑顔が1つの目標でもあるからかもしれない。

「大事なところで打てる選手になりたいんです」。以前そう語っていた笹川。この日の代打がそんな場面での起用だったことも、ひとつの自信につながるはずだ。託された一本を手に、残りのシーズンも駆け抜ける。

(飯田航平 / Kohei Iida)