消せない“傷痕”も「よっしゃ来た」 勝利導いた庄子雄大の走塁…想定通りだった出番の瞬間

代走で出場した庄子雄大【写真:栗木一考】
代走で出場した庄子雄大【写真:栗木一考】

冷静な判断が生んだ好走塁

 ルーキーの走塁がチームを救った。13日のオリックス戦(京セラドーム)、1点を追いかける9回無死一塁という緊迫の場面。近藤健介外野手の代走として送られたのが庄子雄大内野手だった。続く中村晃外野手が放った右前打で、庄子は迷いなく二塁ベースを駆け抜け、三塁に頭から滑り込んだ。この好走塁が起点となり、チームは土壇場で逆転に成功。大きな勝利を収めた。

 8月1日の楽天戦(みずほPayPayドーム)ではスタメン出場したものの、牽制アウトとなる痛恨のミスがあった庄子。小久保裕紀監督からは「プロの厳しさ、怖さを学んでほしい」との言葉があった。それだけに、この日の出場場面には少なからずプレッシャーも感じたはずだ。悔しさを乗り越え、この大一番で堂々とプレーした22歳。その裏には、冷静な分析と積み重ねてきた周到な準備があった――。

「まずは1点っていうところで、次のバッターが(中村)晃さんだったので、スチールっていうよりも晃さんのヒットでチャンスを拡大する方が(得点する)確率が高いのかなと思っていました。ライナーゲッツーだけはないように、しっかりケアしていました」

 代走を告げられた際の心境を庄子はこう話す。その上で、中村の打球もしっかりとイメージできていたという。「想定通りの打球というか、ライト前に打球が行ったので。一瞬、打球をよける感じになってちょっとスタートが遅れたので、三塁はどうかなと迷ったんですけど。大西コーチが腕をぐるぐる回してくれたので思い切っていけました」。相手が三塁への送球を諦めるほどの快走を見せた。

二塁を回る前に大西コーチを見る庄子【写真:栗木一考】
二塁を回る前に大西コーチを見る庄子【写真:栗木一考】

「晃さんのところに代走となると…」

 一連のプレーを奈良原浩ヘッドコーチも絶賛した。「脚力、速さはチームの中でも上位クラス。あとは実際にゲームに出て、そういう中での判断能力になる。でも、よく三塁まで行ったね。あれはスピードがないと、なかなかいけないところだからね」。ベンチには俊足の野村勇も控えていた中で、庄子は出番がくることを“確信”していたという。

「自分が行くとしたら、近藤さんのところかなって思っていました。近藤さんがDHだったので。次の(中村)晃さんのところに代走となると守備が絡むので、そこを考えたら(野村)勇さんの方がいいのかなという首脳陣の判断があると思いました。なので想定通りというか。『(ランナーが)出たら行くぞ』とも言われていたので、『よっしゃ来た!』という感じでした」

失敗を糧にした「準備」と「覚悟」

この好走塁の背景には、8月1日の楽天戦で味わった苦い思い出がある。プロ初長打を放った直後の牽制死。「前回のミスを取り返すというわけではないですけど、同じミスをしないようにというのはずっと頭の中にあります。走塁でのミスが自分の評価を下げる一番のポイントだと思うので」。足が武器であるからこそ、ミスは許されない。そんな覚悟を持ってグラウンドに立っていた。

 たった一つの走塁が試合の流れを変える。あの日の記憶を胸に刻んでいたからこそ、自慢の足でチームを救ってみせた。「終盤の代走っていうところはずっと準備しているので、しっかりやることを整理してグラウンドに入れました」と、自らの存在価値を証明した。ベンチでは常に首脳陣の側で試合を見つめる庄子。その意味が存分に活かされ、詰め込まれた、見事な走塁だった。

同点のホームを踏み、栗原陵矢(左)とタッチを交わす庄子【写真:栗木一考】
同点のホームを踏み、栗原陵矢(左)とタッチを交わす庄子【写真:栗木一考】

(飯田航平 / Kohei Iida)