今季初アーチなのに”笑顔なし”「僕はそう捉えた」 笹川吉康が読み取った小久保監督の表情

今季1号を放った笹川吉康をベンチで迎える小久保裕紀監督【写真:小林靖】
今季1号を放った笹川吉康をベンチで迎える小久保裕紀監督【写真:小林靖】

笹川が振り返った今季初アーチ

 指揮官の表情から“真意”を感じ取った。9月5日の楽天戦(みずほPayPayドーム)、笹川吉康外野手が7回に今季1号となる2ランを放った。約3か月を2軍で過ごしてきた23歳が確かな存在感を示した一発。しかし、本塁打を放った笹川をベンチで迎えた小久保裕紀監督に笑顔はなかった。

 9月2日に1軍登録され、スタメン出場した3日のオリックス戦(同)では3打数無安打と悔しい思いをしていた笹川。その2日後に放った本塁打は大きなアピールとなったはずだ。指揮官にとって2軍監督時代から期待をかけている選手の1人に違いない。笑顔なきハイタッチの真意はどういったものだったのか。そして笹川はこのシーンに何を思ったのか――。

「それ(笑顔がなかったこと)は僕も思ったんですよ。でも、相手は勝ちパターンの投手じゃなかったし、点差もあったので。『当然でしょ』という感じだと思います。僕はそう捉えました」

 笹川が打席に入った7回の時点でリードは9点。勝利はほぼ決定的な状況だった。そんな中での一発に意味がないわけではないが、小久保監督が求める「内容」を理解しているからこそ出てきた言葉だ。

冷静に語った…「チーム的には価値はない」

 試合後に取材対応した笹川は、ホームランの感触を聞かれた際にも「普通でした」と淡々とした口調だった。今季初アーチを放ったとは思えないほど、表情に明るさはなかった。それも指揮官の表情から読み取ったものがあったからだ。

「僕的にはアピールになったけど、チーム的に価値はないんじゃないかなって。もっといい場面とかで打っていればいいんですけど。そんなに易々と監督の笑顔は見れないぞ、という感じです」。自身の本塁打がチームの勝利に直接結びつく状況ではなかったことを冷静に受け止めつつ、求められている基準の高さを再確認した。

残り試合で指揮官の笑顔を咲かせられるか

 笹川に対する小久保監督の試合後のコメントは実にあっさりとしたものだった。「まだ振りすぎていますよ。当たったら飛ぶんですから。まあ点差が開いていたので。残り試合数を考えると、少しでも主力を休ませたほうがいいパフォーマンスができるので。牧原大成と(中村)晃を早く下げて。代わって出た選手がしっかりアピールしてくれましたね」。簡単には褒めない――。指揮官の口ぶりからは、そんな思いが伝わってくるようだった。

 ホームランの後、小久保監督からかけられた言葉は「何もありません」と答えた笹川。言葉を交わさずとも、表情を見ればその心の中が理解できる。主力外野手の1軍復帰も期待される中、結果でアピールするチャンスは、笹川にとってそう多くはないだろう。残り少ないシーズンで指揮官の笑顔を咲かせることができるか――。求められているものは、もうわかっている。

(飯田航平 / Kohei Iida)