チームの勝敗に直結するミスだったことは間違いない。ベテランとして責任を感じないはずもない。だからこそ寄り添った――。8月31日のロッテ戦(ZOZOマリン)、1イニングに2つの捕逸を記録した嶺井博希捕手。支えたのは2人のコーチだった。
「それが実力なので。もう練習するしかないですし、また準備しての繰り返しだと思うので。実力不足を認めるしかないです」。そう淡々と語った嶺井。「孤独にさせたくない」「次頼むで」――。8月31日の試合中、そして試合後にかけられた言葉とは。
「自分が何かミスをしてしまった後って、ベンチに帰ってくるのが嫌なんですよ。要はその瞬間だけを切り取って『なんてことしてしまったんだ』ってみんな思うんですけど、それまでずっとチームに貢献してくれたわけじゃないですか。だから、その瞬間だけを見て、『こいつはダメだ』って勘違いをしてほしくないんですよね、選手たちには」
そう語ったのは伴元裕メンタルパフォーマンスコーチだった。8月31日の試合中、ベンチで嶺井の横に座り、2人だけで会話を交わした。「自分を責めるような思考になってほしくないので。『あいつのプレーすごいね』とか『こういう時、次何投げたらいいの』とか。自分のことよりも、外に意識を向けられるような接し方をしようと心がけていました」と明かす。
嶺井博希という選手をどう見ているのか。伴コーチの答えはシンプルだった。
「本当に嶺井さんって、自分のことよりも人のことを優先する男なので。その時は多分、ショックも当然あったとは思うんですけど、『自分がダメだったからダメ』とかじゃなく。チームとしてどう振る舞えばいいかをすごく考えて、日頃から行動するんですよ。あの日も落ち込んではいましたけど、ベンチから声も出していましたし。終わった次の日からも同じ準備をずっとしていましたし。ほとんど行動は変わっていなかったですね。変えないようにしていたと思います」
現役時代に捕手として何度もミスをしてきた高谷裕亮バッテリーコーチは試合後、嶺井に一言だけ声をかけたという。「次頼むで」。シンプルな言葉には、高谷コーチの思いが詰まっていた。
「ビビっていたら、やっぱりマスクはかぶれないので。もちろんビビるんですよ。でも、それが姿に出てしまったらピッチャーにも伝わってしまうので。ミスをしてしまうんじゃないかという思いは常に消えないです。だからこそ、ミスをしたことをしっかりと受け止めて、繰り返さないように準備をするしかないんです」
悔しすぎる思いをしても、次の試合は待ってくれない。“プロの日常”を12年間も過ごしてきた嶺井だからこそ、コーチ陣は最小限のフォローにとどめた。「プロですよ。もう本当にプロフェッショナルです。そういう男なんで」。そう語った伴コーチ。ミスを引きずることなく、再びチームのために全力を尽くす。喜びの瞬間を迎えるまで、嶺井は戦い続ける。
(川村虎大 / Kodai Kawamura)(長濱幸治 / Kouji Nagahama)