本拠地初マウンドは3者凡退の好リリーフ
“自分だけの時間”をマウンドで体現した。3日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)、6点リードで迎えた8回に球場の雰囲気は一変した。久石譲氏の名曲「Summer」が流れる中、上茶谷大河投手が移籍後本拠地初登板を果たした。打者3人をわずか10球で打ち取る完璧なリリーフ。「楽しかったです」と笑顔で振り返った右腕は、本拠地デビューを最高の形で飾った。
ベンチに戻る際には、ぴょんぴょんと跳ねながらマウンドを降り、チームメートに向かって左腕を叩く仕草を見せた。小久保裕紀監督から“ムードメーカー”の役割も期待される右腕は、なぜこの曲を選び、ジェスチャーでは仲間に何を伝えたかったのか。その裏には、上茶谷ならではの深い理由と遊び心が隠されていた――。
2025年8月2日 福岡ソフトバンク対東北楽天 試合ハイライト【パーソル パ・リーグTV公式】
チームメートも知らなかった…仕草の意味
「なんか自分が落ち着きたかったんです。だから(気分が)上がる曲より、落ち着いた曲の方が入りやすかったんです」
右肘手術からのリハビリを経て、2軍調整中に変更したという登場曲。自らを鼓舞するような音楽ではなく、あえて静かな曲で心を整える。それが上茶谷流のスイッチの入れ方だった。テンポの良い投球で3アウト目に三振を奪うと、ぴょんぴょんと飛び跳ねるようにマウンドを降り、ベンチ前で迎えるチームメートを前に右手で左腕をトントンと叩くパフォーマンスを披露した。
「あれは、腕、腕、腕っていう意味なんです。メジャーのゲームのホームランパフォーマンスであるんですよ。それを調べたら、『今、俺の時間だ』っていう意味らしくて、かっこいいなと思って」
しかし、パフォーマンスが持つ意味をチームメートは誰も知らなかったという。「ベンチは盛り上がってないでしょ。『何してんの』ってなってただけでしょ」と笑うが、3者凡退に抑えたマウンドは、まさに“上茶谷の時間”だった。その姿がチームに好影響を与えたのは間違いない。ベンチでは海野隆司捕手から「嶺井(博希)さんのおかげ」とイジられるのも、右腕の人柄ゆえ。ベンチの雰囲気をさらに明るくした。
結果で示す「ムードメーカー」としての自覚
小久保監督から期待される役割について、上茶谷自身も強い意識を持っている。「(3者凡退に抑えることが)試合中に出来る盛り上げ方というか。ベンチにいないわけですから、ブルペンにいる僕がマウンドに出た時は、そうやってチームを盛り上げられればベスト。なかなか難しいですけど」。言葉だけでなく、結果でチームを鼓舞することが最善の仕事だ。
チームを第一に考えたテンポの良い投球が、最高の結果と雰囲気を作り出した。マウンド上では冷静さとクレバーな投球を見せる一方で、遊び心のあるパフォーマンスでチームを盛り上げる。上茶谷の存在は、シーズン終盤のホークスにとって欠かせないピースとなるはずだ。
(飯田航平 / Kohei Iida)