400犠打の記念ボード…作らなかったのは今宮健太の“要望” 細部まで詰めた大偉業の裏側

通算400犠打を達成した今宮健太【写真:古川剛伊】
通算400犠打を達成した今宮健太【写真:古川剛伊】

中村晃からふいの連絡「予定ある?」

 チームは8月22日から31日まで、3カードに渡って遠征に出ていました。26日の楽天戦(弘前)では中村晃外野手が1500安打を、27日の同戦(秋田)では今宮健太内野手が通算400犠打を達成しました。その舞台裏を、西田哲朗広報が明かします。記念ボードにまつわる“こだわり”。そして、こっそりとあげた祝杯がありました。「おめでとうございます」――。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 まずは偉大な記録の達成、本当におめでとうございます。裏方という立場から、貴重な瞬間に立ち会うことができました。この気持ちもぜひ、ファンの皆さんと分かち合いたいです。

 晃さんから食事に誘っていただく時は「なんか予定ある?」「哲朗、暇?」とご連絡をいただきます。行きつけのお店に行く時もあれば、僕が何個か候補を出して選んでもらう時もあります。晃さんが何を食べたいかでお店が変わりますね(笑)。忙しい人ですし、せっかくならパッと行って喜ばれるものを食べてもらいたいなという気持ちです。

プロ18年目の35歳は「ものすごく気を遣う人」

 遠征中の8月28日は千葉で休日だったので、2人で食事に行きました。本当に“サクッと”っていうテンションだったんですけど、乾杯の時には「1500安打達成おめでとうございます」と直接伝えることができました。晃さんと話すのは、いつも野球のことばかりです。意見の擦り合わせのような感じで「今こういうのがよくて、こういうのがダメだよね」って。僕自身、チーム全体を見ないといけないポジション。人の意見はもちろん大切にしているんですけど、晃さんとは、間違っていることをしっかりと「間違っていますよね」と言える関係だと思いますね。

 福岡で達成できればよかったのかもしれませんが、“あと1本”になってから苦しむこともある。弘前で打てたことも、すごく良かったと思います。なぜかというと、ビハインドの展開から晃さんのホームランが出たことでベンチがものすごく“おめでとうムード”になっていました。連敗の雰囲気が一気に変わった瞬間でしたね。小久保裕紀監督も、あんなにも素の笑顔が出ていたじゃないですか。自然な感じで盛り上がれたので、次の日の勝ちにつながったのかなと。記録達成の一発はチームにとっても効果的でした。

 晃さんも、だいぶ気を張っていたと思います。食事をした時も、やっぱりちょっと疲れているのかなとは感じました。記録が迫っていた中で、他の人に意識をさせたくないというか。ものすごく気を遣う人なので、チームのことを一番に考えていたと思うんですよ。その中で早く決められたのはホッとした部分が大きかったと思うし、報われた瞬間でもあったのかなと。

400犠打を決めた今宮健太【写真:古川剛伊】
400犠打を決めた今宮健太【写真:古川剛伊】

記録達成の瞬間…細かい演出まで「本人と詰めていた」

 翌日には、今宮が400犠打を達成しましたね。実は、そこにも彼らしいこだわりがありました。

 周東佑京選手が200盗塁を決めた時もそうでしたが、基本的にホークスでは、連盟表彰でない限りは試合中に記念ボードを掲げることはありません。試合を止めてしまってはいけないし、相手チームへのリスペクトも必要ですからね。

 それでもヒーローインタビューに選ばれた時や、試合後の記念撮影のためにボードを作ることもあるんですけど、今回は今宮の希望もあって用意もしませんでした。「バントのボードはいい」と。若手時代は細かい技術を生かしてレギュラーになり、今はより打てる選手を目指しているじゃないですか。そういったところにも彼のスタンスが表れているのかなと思いました。

 それを踏まえて、史上4人目の偉大な記録なので。ファンの方々に少しでも触れてもらえるように、ビジター側に「400犠打です」とアナウンスを流してもらうお願いをしていました。ビジョンに映してもらうこともできればよかったのですが、秋田での達成になったのでアナウンスのみとなりました。祝福されるのは本人も嬉しかったと思うし、そういうところまで本人とは詰めていたんです。イーグルスにもご理解、ご協力していただいたので、本当に感謝です。

 22日から始まった北海道の遠征、実は今宮と晃さんと食事をする機会がありました。牧原(大成)とも一緒に、数人でジンギスカンを食べたんですけど、面白かったですよ。それぞれの考えがありましたし、チームをいい方向に向かわせるような会になったんじゃないですか。僕は裏方ではありますけど、1人の野球人として聞いていてもすごく楽しかったです。「ああでもない、こうでもない」と言いながらね。

 僕も広報として5年目のシーズン。近くで努力を見てきた選手が活躍することは、今も本当に嬉しいです。今年の残り試合も少なくなってきました。全力で戦う選手の姿を見逃さず、ファンの方々に届けていけるように僕も頑張っていきます。

(竹村岳 / Gaku Takemura)